シーフード大好きの友人と私にとって、サンフランシスコ湾に面したフィッシャーマンズ・ワーフは何をさしおいても足を運びたい所であった。何しろ目の前の海から水揚げされたばかりの魚介が、ダイレクトにレストランのキッチンに運ばれて客に饗されるのだから、新鮮さと旨さにおいてこれに勝るものはない。
私たちツアー客一行を乗せた貸切りバスは市内観光の途中でフィッシャーマンズ・ワーフに停車したのだが、自由時間は30分、とてもレストランに腰を据えてシーフード料理に舌鼓を打つ余裕は無い。
で、私たちは、魚介を描いたカラフルな幟がはためくレストランの庇の下で、麦わら帽子の下から褐色に日焼けしたおじさんが手招きする立ち食い屋台を目指してダッシュした。
そのおじさんは、私たちの注文に応じて、オデン鍋を平たくしたような丸くて大きな煮立った鍋から、小振りな海老、蟹、貝と透明なスープを発泡スチロール制の深皿に取り分けてくれたので、私はプラスチック製のフォークで、そそくさと小エビを口に入れたところで「うっ」と手が止まってしまった。何だか苦い。貝を口にすると吝くて噛みきれない。そして旨みたっぷりのはずのスープも何やらいがらっぽい。
私の頭の中では、新鮮だから身が柔らかく、ジューシーな旨みが口中に広がるはずであった。しかるに、小エビも蟹も貝も煮すぎて身が硬く、プチッと歯先でかみ切る醍醐味からはほど遠い。スープに至っては甘みも旨みも何処へやら、苦味ばかりが口中に広がっていく。
ふと、深皿の小エビに目をやると、うっすらと背ワタが浮き出ているではないか。どうやら彼の地では、海老の背ワタを取り除く下拵えや、材料の旨みを最大限引き出す火加減といったシーフード料理のノウハウがなく、さらに「舌触りも味の内」といった味覚に対する感覚が私たちとは大きく異なっているようだった。