翌日の朝、遅めに起きた私達がエジソン・ホテルを出ると、タイムズ・スクエアのチケット売り場に並ぶ長い列が目に入った。
興味を抱いた私が、並んでいる中の一人の女性に「何ですか?」と尋ねると、「私達は半額で見たいミュージカル公演の当日券を購入するために、朝の10時から並んでいるのです」と答えてくれた。
そんなお得な話を見逃す手はないと、私たちも列の最後に連なった。
そして、じっくり周囲を見回すと、並んでいる老若男女のそれぞれが、珈琲カップやドーナツを手にして、お喋りしたり、どの公演チケットが売り切れたとか、情報交換し合っていた。
チケット売り場スタンドの窓口に、チケットが売り切れた公演と未だ売り切れていない公演が刻々と表示されていたのだ。
そんな中で、特に私の目を惹いたのは、共にピシッとビジネス・スーツを着こなした中年男性と、若くて美男のゲイカップルだった。
年上の男性は、買ってきたばかりの熱い珈琲入りのカップを手渡したり、スタンドの窓口まで行き来して、彼らが見たいチケットは未だ売り切れていないと知らせたりして、マメに若い男性の世話をしていた。
私の見たところ、長い行列に並んでいる人々の多くが、ここに並んでいること自体を楽しんでいるようだった。
他方で、タイムズ・スクエアの当日半額チケット売場に並んでいる人たちに見せることを目当てに、詩の朗読や一人芝居を披露する人たちが登場して、私達は全く退屈しなかった。
長蛇の列に参加した結果、私達は当時大評判の「A CHORUS LINE」のS席を半額で購入して、足取りも軽くニューヨーク証券取引所の見学に出かけた。
その夜に見たミュージカル「A CHORUS LINE」は、私の英語力で完全に理解できたとはいえないが、それでも民族・人種の対立から生じる辛らつな応酬はかなり理解できた。
「A CHORUS LINE」は多民族が共に暮らす国ならではのドラマだ。
ともあれ、この旅で、目の前がタイムズ・スクエアの当日半額チケット売場という、ブロードウェー47丁目の「エジソン・ホテル」に宿泊した事が、私のミュージカル開眼を促した事は確かである。