矯めつ眇めつ映画プログラム(47)「恋の秋」

 「春のソナタ」「冬物語」「夏物語」で若者の恋を瑞々しく描いたエリックロメールが、四季の物語シリーズの完結編として1998年にメガホンを撮った「恋の秋」は、まさに人生の黄昏を迎えた中年男女の恋のなりゆきを色彩豊かに描いている。


 フランスの小都市で小さな書店を営むイザベル(マリー・リヴィエール)は、結婚式を間近に控えた娘と経済力のある夫と暮らす恵まれた主婦だが、彼女の唯一の気がかりは、大学生の息子と暮らす親友のマガリ(ベアトリス・ロマン)が、渓谷の小さな葡萄畑でワイン作りに専念するばかりで再婚に全く関心を示さない事であった。そこで、イザベルは地域新聞の結婚相手募集広告に記事を投稿して、渋い中年のビジネスマンのジェラルドとデートし、ジェラルドを娘の結婚式披露パーティに誘ってマガリと引きあわせる事を目論むが、身替りデートとは思いもよらぬジェラルドは、イザベルの活き活きとした美しさにどんどん魅了されていく。


 他方、「私は彼よりも彼のお母さんの方が大好きだから彼と付き合っているの」と公言して憚らないマガリの息子のガールフレンド、ロジーヌも、何とかマガリを再婚させようと、つい最近自分が振った哲学教師とマガリを、イザベルの娘の結婚披露パーティで見合わせる計画を練る。現代っ子のロジーヌにとって、何時も白の上下を纏った自信過剰で下駄面のその哲学教師が、未だ彼女に未練タップリで年増なんぞに一向に関心を持たない事など知ったことではない。


 さて、華やかに繰り広げられるイザベルの娘の結婚披露宴ガーデン・パーティでは、マガリをマッチングさせる二つの企みが進行するが、中年女性に関心の無い気取った哲学教師はマガリにとっても問題外であったが、ワインの話題で意気投合したマガリとジェラルドは互いに憎からず思う。しかし、イザベルとジェラルドの親密な雰囲気が気になるマガリが、イザベルに真相をただすために宴の終わったパーティ会場に引き返すと、そこには、事の成り行きに合点のいかないジェラルドも姿を現し、イザベルから真相を明かされた二人はホッと安堵の顔を見合わせるのだった。


 一方は魅力的な自分を囮にした身替りデートで素敵な中年男を、他方は自分が振ったキザ男をと、それぞれ自分が愛する女性の再婚相手にマッチングさせようとする、善意から発したにしてはかなり際どいやり方をとる二人の女性に面食らってしまうが、南フランス特有の燦々と降り注ぐ陽光と芳醇な田園風景があいまって、中年の恋物語に大らかさと明るさを添えて観る側を楽しくさせる。


 それにしても、美しく着飾ったイザベル役のマリー・リヴィエールに対峙して、スッピン、胸・腹ボン丸出しでマガリを演じたベアトリス・ロマンの役者根性に甚く感心したとともに、「緑の光線」で見映えのしないパリジェンヌを演じたマリー・リヴィエールが、12年後にこんなに魅惑的な女性に変身しているなんて、と、同性として、色々見所の多い映画でもあった(写真は映画プログラムより)。



    

 

【銘記】:これまでエリック・ロメールの作品は全てシネヴィヴァン六本木で観て来たが、残念ながら、この作品の上映時には既に廃業になっていた。