矯めつ眇めつ映画プログラム(23)「靴に恋して」

 「靴に恋して」は、スペインの新進監督ラモン・サラサールが2002年に撮った作品で、マドリッドを舞台に、靴デザイナーを目指す若くて美しい娘の恋の挫折と立ち直りを縦糸に、夫の愛情を失い、精神不安に陥る度に靴を買いまくる上流階級の中年女性の揺れる心を横糸にストーリーが展開する。


  靴デザイナーを目指していたはずの娘は、自分の才能に行詰りを感じて、勤務先の高給靴店から盗んだ真赤なハイヒールを履いて毎晩ディスコで踊りつぶれ、そんな無気力な彼女に愛想をつかした画家の恋人は彼女を棄てて去ってゆく。


 片や高級官僚の中年の妻は、冷え切った夫との関係で孤独を感じる度に自分の足より小さい靴を買い、それに足を入れては悲鳴を上げ、遂に足を痛めて足専門医に通い始める。そんなある日、夫が不在にしたホームパーティで、夫の友人から迫られてバスルームで慌しくセックスしたことを告げても何の反応も示さないばかりか、足専門医と一緒に食事をしていたレストランで見知らぬ女性と一緒にいた夫に動揺した彼女は、足専門医を自宅に招き、靴コレクションルームの色とりどりの靴に囲まれた床で足専門医と関係する。いやはや、地位とお金があっても心の空洞は満たせないようで。


 と、こんな具合に、それぞれが履く靴に絡めて、5人の女達の切ない人生模様が展開するのだが、とにもかくにも、スペイン映画はカラフルで見ているだけで楽しい。これは、同じラテン系のフランスやイタリア映画ではお目にかかれない色彩感覚であり、スペイン独特の光によるものであろうか。さらに付け加えるなら、素晴らしい存在感を発揮する俳優が揃っていて、映画に勢いがあり、既にイタリア映画を追い抜いているのではないかと私は思う。


 そういえば、ある雑誌で、長い間イタリアはスペインを「貧しい従兄弟」と見下していたが、国の経済の勢いからしても、今やスペインがイタリアを「貧しい従兄弟」と見るようになったと述べていた。そしてイタリアの才能あるアーチストや俳優が、チャンスを求めて次々にスペインに向かっているとも。


ま、登場するお洒落な靴の数々を、うっとりと眺めるだけでも一見の価値があります(写真はプログラムから)。