矯めつ眇めつ映画プログラム(46)「木と市長と文化会館」

 箱物さえ作れば地域が活性化すると思い込むのは日本の官庁や自治体だけではなさそうで、エリック・ロメールが1992年に監督した「木と市長と文化会館」は、文化会館を建設して街興しを目論む市長提案を、反対派が議論好きの国民性を発揮して、大人も子供も口角泡を飛ばして市長に撤回させるまでをユーモラスに描いている。


 パリ近郊の田舎の市長(パスカル・グレゴリー)は、街の中心地の原っぱに、図書館・野外劇場・プールなどを備えた文化会館を建設すれば、街が賑わい市民も歓迎するのではないかと目論むが、娘のゾエと小説家でもあるエレガントな恋人から冷ややかな反応を得たばかりか、文化会館を建設するためには市民に愛されている大きな木を切り倒さなければならないこともあって、環境保護派から猛反撃を受ける。


 反対派の急先鋒は、環境保護の論客を自認する小学校教師マルク(ファブリス・ルキーニ)で、地域のメディアに積極的に登場しては、文化会館を設立する事でどれだけ地域の環境が破壊されるかを滔々と論じるばかりか、当初は公平な立場で市長とマルクをインタビューしたはずの雑誌も、顔中を口にして熱弁を振るうマルクに影響された編集長の独断でマルク一色に染まってしまう。


 そんな大人たちの喧騒の中で、文化会館建設に批判的な市長の娘ヴェガと、父親の環境保護論を支持しているマルクの娘ゾエが仲良くなり、二人は話し合ううちにお互いの考えが一致している事を知り、ヴェガは父親にゾエを引き合わせ、ゾエは市長に「文化会館を建設するよりも、大きな木の下に皆が憩う場を作る方がどんなに皆が喜ぶか」と訴える。


 建設予定地の地盤の弱さが露見した事も手伝って市長は文化会館建設案を撤回し、原っぱでは野外コンサートに聞き入る市民や大きな木の下で和やかに憩う市民を見せて映画は終わるのだが、これだけオープンに喧々諤々と論争できるフランス人気質が羨ましく思えた。フランスでは小学生ですら、自分の意見を堂々と述べるだけの説明能力を身につけさせているのか。


 自分の意見を主張して「KY、空気が読めない」と、仲間はずれやいじめの対象にされる日本とエライ違いだ(写真は映画プログラムから)。