矯めつ眇めつ映画プログラム(11)「ウオール街」

 2007年のウオール街の冬はひと際寒さが厳しいようだ。低所得者向け住宅融資のサブプライムローンにからむ巨額の損失で、メリル・リンチや米シティグループのCEOの首が飛び、代表的な金融機関で大量の解雇も予想され、クリスマス商戦も低所得者層のみならず高所得者層向けも盛り上がらないとメディアは報じている。


 いつもながら、ウオール街で働く人たちの、飽くなき金儲けにはただただ呆れるばかりだが、それについて私は、オリバー・ストーン監督の映画「ウオール街」を思い出す。これは、1980年代アメリカの狂乱マネーブームの中で、企業を買収する度に、巨額の「さやとり」を稼いで、億万長者となったアイバン・ボウスキーをモデルにした映画で、インサイダー取引にまで手を染めた主人公は、遂に証券取引法違反で有罪の判決を受けて投獄される。


 私がこの映画を観たのは1988年で、ニューヨーク証券取引所が一日で508ドルも暴落したブラックマンデーの余韻も冷めやらない時であったが、りゅうとした身なりで、常に傍らに美女を侍らせ、傲慢な企業乗っ取り屋ゴードン・ゲッコーに扮したマイケル・ダグラスが、株主総会の席上で、並み居る投資家を前に「欲望こそは経済の活力源である」と、20分近い熱弁を振るう場面を、今でも鮮やかに思い浮かべる事が出来る。そして、数あるマイケル・ダグラスの映画の中でも、この作品が彼のベストワンだと今でも思っている。因みにマイケル・ダグラスはこの演技でアカデミー主演男優賞を受けた。


 ブラック・マンデーによってニューヨーク株式は暴落しても、「ウオール街」が上映された頃の東京株式市場は、1989年12月29日の日経平均株価38915円に向って急上昇の局面にあり、私も波に乗って株式投資を始めていた事もあって、ゴードン・ゲッコーの唱える「欲望が経済の活性源であり」、「停滞した経済を打ち破るのは欲望に駆られた人間、欲望の強い人間のエネルギーと行動に負うところが大きい」という行動原理をそれなりに受け入れていたものだった。


 しかし、2007年の冬の今は、行き過ぎた欲望がグローバル規模で国家の経済基盤を損ねたばかりか、金融機関自身が傷ついた経営基盤の安定を図るために、中東、中国あるいはシンガポールといった、資本主義国とは異なった経済システムを持つ政府系投資ファンドから出資を煽ぐ事態にまで陥っているのをみると、色々考えずにはいられない(写真はプログラムから)。