独り善がり読書(20)2007.7.25 中国を多面から読む(1)邱永漢、黄文雄、ジム・ロジャース、春江一也の著作から

 経営コンサルティングを生業とする友人の「中国は大きすぎて実態が掴めないからビジネスの対象として考え難い」との言葉を、一方的に臆病者と決め付けるわけには行かなくなってきたようだ。

 

 これまで、中国は、その国土の広大さと人口の巨大さ、経済成長率、外貨準備高など数字の大きさばかりで語られて世界中の注目を集めてきたが、最近は、経済規模だけでなく様々な角度から中国を伝える情報が際立ってきた。その一端を私が目にした中からまとめてみた。

 

(1)「東京が駄目なら上海があるさ」邱永漢

 

 

 当時は未だ「お金の話をするのははしたない」、「額に汗して働かないでお金を儲けるのは宜しくない」を潔とする風土の日本に、積極的にお金儲け精神を最初に持ち込んだのは邱永漢氏であった。

1924年台湾生まれの直木賞作家は、いまや、投資家として、経営コンサルタントとして、東京・台北・北京・上海・昆明などに拠点を置き、年中身軽に飛び回っている。いわば投資家の視点から、中国には色々問題があるが、その分ビジネスチャンスもあると楽天的に説いている。  

 

 

(2)「文明の自殺~逃れられない中国の宿命」黄文雄

 

 

 1938年台湾生まれの著者による何とも分厚い中国文明論である。300頁のうち、ちょうど半分読み終えたところであるが、春秋戦国時代から最近の文化大革命に至る絶え間のない権力闘争が、いかに山河を崩壊させ、文明・伝統を破壊してきたかを迫力を伴って描写している。

さらに、中国は一つの国家と見る事が出来ない実体を、チベットを初めとして幾つもの独立を目指す民族を辛うじて共産党政権の強力な権力で束ねている実態や、農村を搾取する都市の情況、そこから生じる都市と農村の対立の激化も納得のゆく筆致で描いている。

 私にとって、この「文明の自殺」は、中国が北京や上海、深圳だけでないことを知るためにも最後まで読み通したい本である。

 

 

(3)「娘に贈る12の言葉」ジム・ロジャース

 

 

 「娘に贈る12の言葉」は、あの、世界的投資会社「クォンタム・ファンド」を、ジョージ・ソロスと共同設立して驚異的な儲けを得た後、新たな投資先を探るために六大陸を1度目はオートバイで、2度目はベンツで横断した、冒険家であり投資家として著名なジム・ロジャースが、2007年にシンガポールに拠点を移し、晩年に得た一人娘の為に書いた、投資と人生の処方箋である。

 この本の要点は、著者が「中国の未来を買おう」との娘へのアドバイスと共に、娘のベビーシッターに中国語(北京語)でしか話さないように依頼していることと、さらに、娘の愛称のルールーが漢字の「楽楽」に由来していると、訳者があとがきで述べている事である。いずれにしても、投資の神様、ジム・ロジャースは中国の将来を大きく評価しているのだ。

 

 

(4)「上海クライシス」春江一也

 

 

「上海クライシス」は、広大な中国が内包する民族独立闘争と政権の権力闘争をミステリーに仕立てた、元外交官で「プラハの春」で小説家デビューを果たした春江一也のベストセラー小説である。

あいにく、大分の作品で、多数の予約待の最中に図書館から借りた事もあり、私は3分の2まで読んで返却せざるを得なかった。それでも、中国は北京や上海だけではないばかりか、民族を強制的に共産党政権という武力装備を持つ強力な権力機構でねじ伏せている一端は見えてくる。