独り善がり読書(22)2007.8.27「人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか」(1)本書を読む経緯と読書ノート

(1)本書を読むに至った経緯

 

 私は予てから、グローバル経済の本質について体系的に把握したいと思っていた。何故なら、①企業業績は好況なのに、労働者の賃金は上昇しない、②景気が回復したといわれて久しいのに何時までたっても金利が上がらない、③一億総中流といわていい気になっていたうちに、知らないうちに「新富裕層とワーキングプアー」、「上流と下流」と膾炙される二極化が進行していた、など、最近の現象が、私が長い間馴染んだ日本経済の概念から遊離してきたからである。

 

 そんなこんなの日々の中で、折りしも、3ヶ月くらい前の日経新聞書評欄で「人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか」水野和夫著(日経新聞社)を目にし、これこそグローバル経済を体系的に把握できる本ではないかと早速入手して目を通してみた。

 

 

 

以下は、「まえがき」からの私のメモである。脈絡に欠け、表現も噛み砕かれていないが、あくまでも私の読書メモとしてそのままを載せる。

 

1995年を境に戦後経済の常識の多くが通用しなくなってきた。その原動力は、90年代半ばから急速に進展したIT革命とそれを駆使したグローバリゼーションである。

 

  • 94年に日本の物価が戦後二度目のマイナスを記録して以降、現在(2007年8月)まで下落を続けている。
  • 日本の金融システムが揺らぎ始めたのも95年以降からで、98年には日本の長期金利が世界最低を記録した。
  • 賃金が景気の良し悪しとは関係なく下落するようになったのは98年からであり、景気が回復する事と国民の生活水準が向上する事が同義語で無くなった。

 

(2)読書ノート:「グローバリゼーション下で生じている大きな構造変化」

 

  ①帝国の台頭と国民国家の退場=帝国化

  資本が軽々と国境を越えるグローバリゼーションの時代は必然的に「帝国」と親密

  性を有する。16世紀には資本は主権国家と結婚したが、21世紀には資本は帝国

  をパートナーとして選ぶ。 

   それに伴い、経済的な「国境」が限りなく低くなり、国境内に権力を及ぼす「国

  民国家」の力が衰退する一方、金融帝国と化した米国や中国・インド・ロシアな

  どの旧帝国の台頭が著しい。

 ②金融経済の実物経済に対する圧倒的な優位性=経済の金融化

   グローバリゼーション下では、「資本の反革命」によって先進国の賃金が抑制さ

  れる、ないしは低下するから、先進国ではディスインフレ、ないしデフレが定着す

  る。そして、金融政策は緩和基調となり、実物経済に比してマネーが膨張するか

  ら、資産価格が上昇し易くなり、先進国経済は資産価格依存症候群に陥る事にな

  り、いわば、金融経済(尻尾)が実物経済(頭)を振り回す時代になった。

   近い将来、金融経済が頭になり実物経済、すなわち、雇用や生産活動が尻尾にな

  る可能性が高い。雇用が尻尾になるという事は「中産階級の没落」が始まる事にな

  る。

 ③均質性の消滅と拡大する格差=二極化

   近代は国民に均質である事を要求したが、グローバル経済の時代の時代には国家

  単位の均質性は消滅する運命にあり、日本に関しては「一億総中流意識」が崩壊

  し、格差拡大の時代が到来する。

   その結果、格差は構造的な問題となり景気回復では解決できない。従って政策で

  成長を目指せば時代の流れから取り残される人が増え、人々の将来への不安が高ま

  り、将来へ備える事よりも日々の暮らしを充実させる事を優先し、いっそう少子化

  が進む。

 

その行き着く先は、21世紀の最大の勝者は、国境を越える巨額の資本や「超国家企業」であり、敗者は国境を越える事が出来ない先進国の国内産業や中流階級であり、視点を変えれば、近代の仕組に拘泥する超低金利国が敗者となり、近代化と決別できた国が高金利国となり勝者となる。

 

『私の独白』:なんとも、大胆な理論展開ではないか。そして2024年の時点で見れば、

私の思いつく下記の視点では予想が的中していると感嘆している。

 

  • 日本に関しては「一億総中流意識」が崩壊し、格差拡大の時代が到来する。
  • 人々の将来への不安が高まり、将来へ備える事よりも日々の暮らしを充実させる事を優先し、いっそう少子化が進む。
  • 「21世紀の最大の勝者は、国境を越える巨額の資本や「超国家企業」であり、敗者は国境を越える事が出来ない先進国の国内産業や中流階級であり」の、指摘は、アメリカのトランプ大統領出現の主たる土台になっている。
  • 金融政策は緩和基調となり、実物経済に比してマネーが膨張するから、資産価格が上昇し易くなり、先進国経済は資産価格依存症候群に陥る事になる。
  • その結果、今や株価・土地・建物等の資産価格は目の飛び出るほどに上昇を続けているのに、賃金はちょっとやそっとではなかなか追いつけない時代に入っている。