描く人願望(9)「お絵描き帳」’05 ミニコンポ

  1974年の長崎旅行でスケッチをして以来「お絵描き帳」はクローゼットの奥深く仕舞いこまれて茶色に変色したのだが、2005年7月に新たな「お絵描き帳」を入手してミニコンポを描いているのは、定年退職後1年を経て気持ちが落ち着いたからであろうか。

 2004年5月31日に40年近く勤めた会社を定年退職し、退職直後の6月下旬から2ヶ月間をハーバードサマースクールで過ごしたのは、「会社員」から「隠居」という180度異なる人生に踏み出すための幕間(まくあい)が必要であったからであり、かつ、ボストンで2ヶ月ほど暮したいと思ったからであった。

 サマースクールから帰国した直後は猛勉強の疲れと時差ぼけで2ヶ月ほど体調を崩し、何とかそれを乗り越えた頃からムクムクと湧いてきたのは「自分の土俵で何かを表現したい」という思いであった。

 そんな思いが「お絵描き帳」を再び手にさせたのかもしれない。このミニコンポの絵、遠近法とか透視法など端から抜けている。  

 このミニコンポで、かつては、モダンジャズだけでなく、ボズ・スキャッグスイーグルス、スターシップや、ザ・バンドのライブ映画のサントラ盤「ラスト・ワルツ」を何度も繰り返し聞き、笠井紀美子ジョージ・ベンソンの「マスカレード」を聞き比べたものだった。しかし、それらのCDは既に処分して、今やミニコンポは地震速報を聞くだけの機械と化している。

 最後にミニコンポを重用したのは一昨年4月〜9月のNHKラジオ『まいにち中国語(8:15〜8:30)』を欠かさず聞いた時で、番組終了直後にはMD録音した講義を二度復習するほど熱意を持っていた。あの頃は中国経済に勢いがあり、羽田━上海直行便もホットな話題であったから、近々に中国旅行をと考えていたようだ。

 が、その後東日本大震災で様相が一変し、かつ中国は私の好まないあれこれを次々に露呈してくれ、今の私には、あのMDと中国語テキストを再び取り出す熱意は失せている。