矯めつ眇めつ映画プログラム(12)「そして愛に至る」

 ジャン=リュック・ゴダールが、彼の長年のパートナーであるアンヌ・マリー・ミエヴィルの監督作品に、一俳優として主演した映画「そして愛に至る」は、中年の知的な夫婦の倦怠感から和解に至る過程を描いている。

 
 プログラムによると、ミエヴィルが仕上げたばかりの脚本をゴダールに見せたところ、夫の役をやらせてくれと言われたが、始めはそれを断り、彼も他の俳優と同じように脚本読みをした結果、ゴダールが主演することになった。また、妻の役は他の女優を予定していたが、その女優の都合が悪くなって、ミエヴィルが演じることになり、図らずも夫婦共演となったという経緯がミエヴィルの口から語られている。

 
 この作品のゴダールは、若くて魅力的な女性から、これ見よがしに挑発されても、ただおろおろするだけのぶざまな中年男を、そして妻の前でぽろぽろ涙を流しながら許しを請う、ぶきっちょで意気地の無い夫を、かわゆく、楽しんで演じている。

 
 映画を見終えて強く感じたことは、偉大な世界のゴダールという男と30年に亘るパートナー関係を続けながら、彼の巨大さに押し潰される事無く、確固たる自分の地歩を築き、堂々と自分の存在感を発揮し続けている、アンヌ・マリー・ミエヴィルの力強い美しさである。

 
 ロダンに才能の全てを飲み込まれ発狂した女流彫刻家のクローデル高村光太郎の陰で芸術家としての才能を発揮し切れなかった千恵子、偉大な男性芸術家と才能ある女性芸術家の組み合わせが、悲惨な結果を招いた例が多いだけに、アンヌ・マリー・ミエヴィルの見事な生き方は、こちらの気分を元気にしてくれる(写真はプログラムから)。