隠居Journal:神保町と私(6)回想(6)2006年1月:岩波ホールで「二人日和」

 

私は、年末に京都を訪れて足の向くままあちこち歩き、三条河原町古書店で古書を漁り、四条川原町や錦小路でお節を買い込んで、新年を京都で過ごす人達と入れ違いに大晦日に東京に帰って新年を迎えることを長年の習慣にしていたので、京都御所の近くの老舗で暮らす人たちを主人公にして、素顔の京都をじっくり描いた映画ということに惹かれて、「二人日和」を岩波ホールに観に行った。

 

岩波ホールは1968年2月にミニシアターの草分けとして開館し、惜しまれながら2022年7月29日に閉館したが、その間ずっと、ずっと、神保町のシンボルでもあった。

 

私自身は特に1980年代に、ヴィスコンティやベイルマンの作品を観によく通ったものだが、その当時の岩波ホールは格調の高い映画好きのメッカであった。

が、「二人日和」を上映するこの日、チケット売場に並んでいる人たちの95%がシルバー割引料金の観客で、カップルの姿も目立った。

 

 

 

映画を見て分かったのだが、「二人日和」は、不治の病を患う妻を看取るために、遂に先祖代々続いた神祇装束司店を畳んでしまう夫の姿を通して、末永く添い遂げた夫婦愛を謳ったもので、京都の街の暮らしを織り込みながらしみじみとした味わいがシルバー層に大いに受けていたようである。

 

私自身は、この映画を通して、王朝伝来の美しい色彩や伝統行事を見る事が出来、また、京都も激しい時代の荒波に揺さぶられており、だからこそ何とか京都をこれからも盛り上げたいと、京都を愛する産業人や個人の熱意を感じることが出来た。

 

描かれている夫婦愛は少しロマンチックすぎるが、しかし、「不治の病の妻を夫が看取る」という設定は、「夫を看取るのが妻」という通常パターンを覆して、それなりに鋭い問題提起ではないかとも思った。

 

この映画を観終わって、さて、シルバーカップル達はどのような会話を交わしたであろうか、大いに興味のあるところ。