矯めつ眇めつ映画プログラム(44)「黄昏のチャイナタウン」

 ジャック・ニコルソンが1990年に監督・主演した「黄昏のチャイナタウン」は1974年にロマン・ポランスキーが監督した「チャイナタウン」の続編に当たり、ジャック・ニコルソンを主役に、フェイ・ダナウェイジョン・ヒューストンを配した前作に比較して小粒な演技陣は多少見劣りするものの、オーソドックスなハードボイルドに拘ったニコルソンの熱意がひしひしと伝わる見応えのある作品だった。


 前作から10年経過した1948年のロスアンゼルス、妻の浮気調査を依頼された私立探偵ジェイク(ジャック・ニコルソン)は、モーテルの一室で隣室の浮気現場を盗聴している最中に、依頼主が妻の浮気相手を銃殺するという現場に出くわし、さらに、銃が殺された男の物であった事から依頼主のバーマン(ハーヴェイ・カイテル)が不起訴となった事に不審を抱き、バーマンの妻キティを尾行していると、銃殺された男の妻に雇われた弁護士もキティを尾行しているのがわかる。


 さらにキティを尾行していた弁護士の後に続いてジェイクがロス最大の石油会社に入ると、その会社の土がジェイクの留守中に浮気現場の盗聴テープを盗みに入った男が残した土と同じ事を知り、急遽事務所に戻り盗聴テープを聴くと、キティが、かつて前作「チャイナタウン」でジェイクとつかの間愛し合い非業の死を遂げたイブリン(フェイ・ダナウェイ)の忘れ形見である事が分かる。


 後に引けなくなったジェイクは石油会社の社長の懐に飛び込み、バーマンが殺した男はバーマンの事業の共同経営者で、この所頻々と起こる地震ははバーマンと殺された男の所有地の地下に横たわる油田を石油会社が採掘している時に生じていることを知る。


 ジェイクは集めた証拠をネタにバーマンに真相を吐くように迫るのだが、一度は拒んだバーマンも、病に倒れた病床からジェイクを呼び、不治の病で妻に醜い皮膚を見せたくなくて浮気をしているように振舞ったために妻が自分の共同経営者と浮気をするようになったこと、余病いくばくもない自分が死ねば、共同経営の男は油田の莫大な利益を独占するために妻を殺す事は目に見えているから自分の手で彼を殺した事を告げて、ジェイクの去った家に一人残って火をつける。


 強面(こわもて)のハーヴェイ・カイテル扮するバーマンの妻キティに見せる何とも純な男の心情、そしてキティの母イブリン(フェイ・ダナウェイ)を忘れられない男の心情を見せる、これも強面のジャック・ニコルソンが扮する私立探偵ジェイク、重量級の二人の迫力あるからみがこの映画の最大のみどころでもある。


 前作「チャイナタウン」ではダム建設に伴う水資源、本作「黄昏のチャイナタウン」では石油と、巨額の利益の源泉となる資源をめぐる争いは、1930年代から50年代のロスアンゼルスではハードボイルド小説を生み出したが、21世紀のグローバル化した資源をめぐる争いは、やたら、きな臭いばかりでロマンのかけらも見られない(写真はプログラムから)。