隠居Journal:神保町と私(2)回想(2)2007年8月:日本書房で「国文学」漁り

待望のひと雨後の涼しさ、これは「古書漁り日和」とばかりに、神保町の日本書房に行く。日本書房は、先日、神田古書店地図帖を私にくれた書店のご主人が、「神保町で唯一の国文学関係を豊富に揃えた店です」と教えてくれたお店である。

 

 

都営地下鉄三田線神保町駅で下車して白山通りを水道橋に向うと、日大経済学部の斜向かいに目的の書店が見えた。ドアを開けるとお香の薫りが何とも奥ゆかしい。

 

 

一歩足を踏み入れた途端に、目が彼方此方に吸い寄せられる。古代・中世・近世に亘る、政治・宗教・文学・美術・芸能分野の書籍が豊富に揃っているようだ。大学の先生を初めとする国文学研究者から頼りにされている店なのだろう。

 

そういえば、20年位前だが、院政時代の公卿の日記「中右記(※)」に大枚4,500円支払ったのもこの店だったと思い出した。

 

 

この古書は、院政時代の院と近臣、源平の武士、南都北嶺(ほくれい)の僧徒らの動き、大田楽、熊野詣(くまのもうで)などの世相、検非違使(けびいし)による検断の実態、造寺造仏の盛行や貴族の家の私生活のありさまなど、「院政期」という時代に生きる各階層の人々のエネルギッシュな生き方を活写して、私の長期に亘るブログ「院政期探究」シリーズの引き金となった貴重な一冊となった。

 

(※)中右記:平安末期の公卿(くぎょう)藤原宗忠(むねただ)(1062―1141)の日記。著者の宗忠が京の中御門富小路(なかみかどとみのこうじ)邸に住み、右大臣に上って「中御門右府(うふ)」と称されたので、その日記を『中右記』とよぶ。白河院政開始期の1087年(応徳4)正月元日、26歳のときから筆を起こし、鳥羽政期の1138年(保延4)2月29日、77歳で出家受戒するまで、52年間にわたって書き継がれた。

 

さて、店内をさっと一巡すると、目的の雑誌「國文学」が、書棚にずらっと勢揃いして背表紙を見せているのに感激する。背表紙を一冊一冊チェックして、「中世」「院政」そして「西鶴」に関する4冊を買う事にした。

 

 

 

ここで、一息つくためにカフェに陣取って成果物のページを捲って満足した後、ひょっとして、かつて、都電で通っていた頃に馴染んだ店がまだ残っているかもしれないと、白山通りを一つ入った裏通りを歩くと、かつての珈琲店李白」が見つかった。

 

あの頃の「李白」は、今は「喫茶去」と名前を変えていたが、店の佇まいは当時と変わっていない。チラッと店内を窺うと、白髪の男性が数人静かに本を読んでいた。本の好きな人が過ごす「隠れ家」的な店なのだ。表に掛かっているメニューを見ると「イタリア、グァテマラ、ペルー、タンザニア」などが、それぞれ600円だった。ここは、一人一人に丁寧に点てるから、600円は高くないかもしれない。