新古今の周辺(10)鴨長明(10)歌合(2)俊恵の歌林苑

俊恵は洛北・白河の僧房で歌林苑と名付けた歌合を月毎に催していた。そこには官位の低い僧侶・貴族・女房などが集って親密な雰囲気に包まれていたとされ、会衆の一員だった鴨長明は『無名抄 14 千鳥、鶴の毛衣を着ること』でその場の雰囲気を伝えている。

歌林苑の歌合で「寒夜千鳥」という題が出されたとき、会衆の祐盛(ゆうせい)法師が「千鳥も着けり鶴の毛衣」と詠んだところ、参会者が珍しいと言い合っている中で、素覚という歌人が何度も何度もこれを繰り返して「とても面白い。ただし、寸法が合わないのでは」といったことから座がどよめき、あとは興ざめして笑いも鎮まってしまい、当の祐盛法師は「まことに秀句ではあるが、こんなことになってしまっては、その甲斐もない」と語っていました。

全ては、この歌のわかりにくさから発している。鳥は毛衣を衣とするものであるなら、千鳥も自分の体の大きさに合わせた毛衣を着ているはずで、寸法の合わない借りものの鶴の衣を着るはずもないであろう。

かつて、建春門院の殿上の歌合(建春門院北面歌合としてしられる)でも、「鴛鴦(おし:おしどり)」の毛衣」と詠む歌があって、参加者の中には多少疑う人もあったようだが、その時の判者(藤原俊成)がそうそう批判することもなかろうと会衆をなだめられたようです。

但し「鶴の毛衣は毛の心にはあらず。別のことなり。鶴だけが持っているのである」と云った人もいたようですが、いまだその証を得ていない。物知りの人に尋ねるべきです。

参考文献: 『無名抄 現代語訳付き』久保田淳 訳注 角川文庫