矯めつ眇めつ映画プログラム(38)「ラウンド・ミッドナイト」

  「田舎の日曜日」で20世紀初頭のパリ近郊の豊かな田舎生活を描いたベルトラン・タヴェルニエ監督が、1986年に撮った「ラウンド・ミッドナイト」では、黒人差別や時代遅れを理由にジャズの本場アメリカから見放された大物ジャズミュージシャンを受け入れ、画期的なジャズ時代を築いた1950年代のパリを、アル中患者の大物サックス走者と彼を死ぬまで暖かく支えた貧しい青年の物語を軸に、ジャズ賛歌ともいえる熱意を込めて詩情豊かに描いている。


 1959年のある雨の日、パリのブルーノートでは、アメリカから来た大物テナー・サックス奏者デイル・ターナーが熱心なジャズファンを魅了していたが、雨に打たれながら入り口で熱心に聞き入る若者フランシスがいた。貧しくて入場料が払えない彼は、その後もデイルの演奏を聴くために入り口に佇み、家に帰ると待っている一人娘にどんなに演奏が素晴らしかったかを語って聞かせる。


 そんな中で、デイルとフランシスは言葉を交わすようになり、青年は入り口ではなく演奏会場で聴く事が許されるが、いつしか青年はデイルが演奏活動に支障を来すほどの重度のアルコール中毒と知り家に引き取って面倒を見る。


 そしてデイルが立ち直った頃、大物興行師からニューヨークでの演奏を熱心に勧められ、デイルとフランシスは期待に満ちてアメリカに渡るが、そこで待っていたのはデイルの演奏を時代遅れと見放すジャズファンの姿であった。傷ついたデイルを連れて再びパリに戻ったフランシスは、デイルが死ぬまで面倒を見るのだった。


 この物語は、アメリカから見放され音楽亡命の形でパリに渡った手天才ジャズピアニスト、バド・パウエルとそれを支えた青年の実話を元に作られたといわれるが、デイルに扮したデクスター・ゴードンの演奏は勿論だが演技も素晴らしく、フランシスに扮したフランソワ・クリュゼのナイーブさと相まって何とも言えない良い味を出していた。そしてニューヨークの大物興行師を演じたマーティン・スコセッシと演奏者仲間を演じたハービー・ハンコックがとても愛嬌があり、ふんだんな演奏場面とも相まってジャズ・ファンには応えられない映画だった。


 この映画を見て感激した私と友人は、放映後に来日したデクスター・ゴードンの演奏に足を運び、熱狂的な拍手を、惜しみなく、惜しみなくおくりました(写真はプログラムから)。 


      
         




         




         
 


余話:ブルーノート

 1986年のGWに初めてニューヨークの「ブルーノート」に足を入れ、場内の大半が日本人観光客で占められ、何とも覇気のない演奏に失望していたのですが、同じ年の秋にこの映画を見て、1950年代のパリの「ブルーノート」に集う演奏者とファンの熱い雰囲気に感動してしまいました。そして1988年に青山にオープンした「ブルーノート東京」に足を踏み入れ、良い耳を持つジャズファンと、レベルの高い演奏で期待に応える一流ジャズミュージシャン達が醸しだす熱くて親密な空気に完全に魅了されました。


今や、一流のジャズは東京でと言われる時代だそうです。つまり、東京のジャズファンのレベルが世界一と言うことでしようか。