矯めつ眇めつ映画プログラム(39)「カンザス・シティ」

 ジャズ映画といえば故ロバート・アルトマン監督が出身地を舞台に1995年に撮った「カンザス・シティ」は全編これ黒人ジャズといった趣で忘れ難い。


 時は大恐慌下の1934年、ルーズベルト大統領就任二年目のアメリカは腐敗政治が蔓延し、選挙投票日を明日に控えたカンザス・シティでは、政治家と結託したギャングが労働組合と睨みあい街は不穏な空気に包まれていた。


 そんな中で、事もあろうに大統領顧問の妻キャロリンが、拳銃を振りかざす血の気の多い娘ブロディに誘拐される。ブロンディはギャングの親玉に捕まって殺されそうな恋人を取り戻すため、大物政治家から圧力を掛けさせようと目論んだのだが、人質に取った政治家の妻が、頭のネジがキレかかったアヘンチキンの常習者というとんだ食わせ者。


 と、こんなで出しで、拳銃を振り回す物騒な娘と、不気味に眼が据わり何をしでかすか分からない政治家の妻との女二人の道行きを軸に、何かにつけて暴力に訴えるギャングの親玉が絡んでドラマは荒っぽい展開を見せるが、その荒っぽさを際立てるかのように、炸裂するフォーン・セクションをフューチャーしたジャズが全編を覆う。


 この映画の最大の見所は、黒人ジャズが黄金時代を迎えた1930年代のカンザス・シティで流行りに流行ったジャズクラブ「The HEY・ HEY club」を再現して、最高の黒人ジャズ・プレーヤを結集したバンドによる演奏シーンがふんだんに味わえる事。勢いのあるリズムと熱気、時にけだるいムード、完全に痺れました。それに、ミュージシャン一人一人が味のあるいい顔をしていて、パシッと決めたいでたちの彼らが汗を物ともせず演奏する姿の何ともカッコいいこと。今時見られない伊達男の見本市。今でも演奏シーンを思い浮かべながらサウンドトラックに聞惚れている。


 そして、もう一つの見所は、政治家の妻を演じたミランダ・リチャードソンのえもいわれぬ存在感、名士の妻としての洗練された身のこなしと、アヘンチンキ常習者のキレかかった危なさを併せ持つ摩訶不思議なキャラクターを見事に表現していた。ギャングのボスを演じたハリー・ベラフォンテも凄みがあってこれはこれで見ものであった(写真はプログラムとCDジャケットから)。