私はどれでしよう、楽屋裏のドラマ

 
1) 自画像事始め:私はどれでしよう?

 「自画像は顔に自信のある人が描くもの」と思い込んでいたが、絵に造詣の深い友人の奨めで2B鉛筆を手に「自画像5分間スケッチ」を試してみた。

顔を映した姿見と描く距離によって表情が異なる事、また、スケッチブックを膝にのせて描くのとイーゼルに立てかけて描くのとでも表情が違って見える事が分った。

さらに、裸眼の時と老眼鏡をかけた時では、前者は顔の細部がぼんやりとし、後者は顔の細部が誇張されて見える事を実感した。

で、出来上がったのがこの4枚、わたしはどれでしよう?答えはどれも私です。





2)エキストラタレントの風景(4)楽屋裏のドラマ

問わず語りを披露した3人の男性が立ち去った頃、控室のモニターにはいつの間にか設えた大相撲の土俵が映り、それと同時に控室への人の出入りが激しくなり俄かに騒々しさが増してきた。舞台装置が整いいよいよ撮影に入るのだ。

最初に目に入ったのはジーンズのジャケットに黒のスパッツ、足にはスニーカーを履いた20代後半の女性で、彼女はウエストポーチから柔らかな布を取り出して、テカテカ光るタレントのおでこの汗をぬぐい、その後からパフを当て化粧崩れをなおしていた。

その向こうでは、黒いシャツにジーンズとスニーカーの20代後半から30前後とおぼしき男性のグループが、様々な道具類の整理をしていた。

そして私たちの近くに群れをなしたのは出演者とおぼしき一団で、その中に髷にまわしを着けた二人のまだ若い男性がが混じっていたが、彼らの会話から、一人は元力士でまだ無名のタレント、もう一人は体格の良いのを買われて力士の役を指名されたエキストラタレントだと分かった。彼らを遠巻きにした形の「呼出し」姿の男性は私も見知っている同じ事務所の人だった。

「行司の○○さんが役者に衣装を着せて演技指導をしにゆくんだ」との声に誘われて廊下に目をやると、風呂敷包みを抱えた和服姿の初老の男性が夫人とおぼしき和服の女性と通り過ぎるところであった。

そんな騒々しい一団から少し離れた部屋の片隅では、CM撮影の指揮官ともいうべき監督が何かに腰を下ろしてぼんやりとタバコをふかしていた。30代半ばと思える神経質そうなイケメンの彼の顔色は疲労の濃さを反映して黒ずんでいた。

当時は、CM監督の成功はテレビドラマや映画の監督への道に繋がると喧伝されていたから、彼も当然野心を抱いていたであろうが、大きなスポンサーの大規模なCM撮影を任されて重圧に圧し潰されそうになっていたのではないか。

その彼の放心した目がこちらに向かいそうになったので、「画面に顔が見える役」でオファーされた私たちに目をとめて何らかの注意を払ってくれるのではないかと内心期待したのだが、彼の視線は何の反応も示さず私たちを素通りして再び彼の膝の上に落ちて行った。