描く人願望(8)「お絵描き帳」’69練馬区(2)隣の児童公園

 アパートの窓から児童公園を見下ろせた。右端に木の柵に囲まれた石段があり、子供たちはそこからとっとこ、滑り台や砂場やブランコに向かって駆け出す。週末に開け放した窓から、遊びに夢中になっている子供たちの声を聞いているだけで心が和んだものだった。

 正面に立つのは藤棚で、その向こうにブランコで遊ぶ子供たちが見える。藤棚の枝はそんなに大した量ではないが、花の季節になるとそれなりに華やいで目を楽しませてくれた。

 揚げたてのメンチカツをお裾分けしてくれた庶民的な大家さん一家が引っ越して、新たに大家さんになったのは初老の上品な中央官庁キャリアの奥様で、お店ごっこならぬ大家さんごっこをしてみたかったようだ。

 何故かその新大家さんに気に入られて招待を受け、勤務先の大手町から九段下の官舎を訪れたところ、老舗から肝吸い付きの上等の鰻重を取り寄せてくれ、恐縮しつつも一粒のご飯も残さず平らげてしまった。デザートの和菓子も緑茶も半端ではなかった。

 官舎には風呂が備わっているのに、「タクシーで神保町の銭湯に行きますのよ、ホ、ホ、ホ」と屈託なく笑うふくよかな表情がこれまた眩しかった。