2000年6月初旬、私は友人Mさんのハーバード大学ケネディスクール卒業ランチョンセレモニーの招待を受け、メーカー勤務の友人Kさんと休暇をやりくりして5泊の短いボストン滞在を楽しんでいた。
ハーバード大学の卒業式は、午前に全校式典があり、お昼前に学部、ビジネススクール、ロースクール、ケネディスクールなど、それぞれの会場に分かれて卒業証書授与を行い、家族・友人たちと卒業生が喜びを分かち合うランチョンセレモニーが繰り広げられた。
その時のメイン式典に招待された5人の名誉ゲストには、ボストン市民から絶大な人気を博していた指揮者の小沢征爾氏と作家の大江健三郎氏が含まれ、ハーバード大学と日本の親密な関係を窺がわせた。
ところで下記の写真は、そのとき滞在していたシェラトン・ホテルが、毎朝客室に配布していたUSA TODAYで、かなりの紙面を割いてスターバックスのアジア進出を報じていた。
これを読むと、当時、香港に進出してまだ2ヶ月足らずであったスターバックスだが、それまでコーヒーを飲む習慣を持たなかっただけでなく、「お茶は身体に良いがコーヒーは身体に悪い」と頑なまでに伝統として受け継いできたはずの香港の若い人たちの中に、一日に1回スターバックスにコーヒーを飲みに行く習慣が広がりつつあることがわかる。
私はこの記事から「ああ、スターバックスは進出先で新しいカルチャーを作り上げてゆくのだなあ。単に物を売るだけでなく、グローバル展開しながら新しいカルチャーを作り上げる企業は絶対伸びると」と感じ、日本に戻ったらスターバックスの株式を購入しようと即座に決めた。
そして帰国後直ぐに証券会社に連絡を取り、ニューヨーク証券取引所に上場しているスターバックス・インクの株式を単価$35で100株購入した。二国間経由取引であるから、為替リスクや、税金、手数料などのコストが馬鹿にならないが、成長企業の株式を長期保有するのであるから承知の上であった。
それから5年後の2005年9月、私は日経ホールでスターバックスのシュルツ会長の講演を聴く機会を得た。そこで氏は「私は労働者階級の出身で、自分が子供の頃、トラックの運転手をしていた父親が怪我をして、社会保障の無い労働者というものがどんなに不安定であるかを身に沁みて感じた。だから、スターバックスは赤字の段階から全ての従業員の雇用保険、医療保険をカバーしている。スタバは広告宣伝費にお金をかけるよりも従業員第一の姿勢こそ企業発展の要と考えている」と熱っぽく語っていた。
株式購入後のスターバックス・インク株は目覚しい上昇を見せ、一株当たりの価格が倍近くなると株式分割をして株主に報いてきた。2006年1月頃には当初購入した100株が株式分割で400株となり株価も$30で、当初の購入価格$35を考えると単純に4倍とはいかないがそれでもなかなかの成果であった。
その後シュルツ会長が一線を退いて若手に後事を託している間に、リーマンショックの煽りでアメリカ経済は不況に陥り、コーヒー豆の急騰、円高の進行が重なって株価は見る見る下落して、創業者の理念を尊重して長期保有するつもりでいた私もついに2008年7月にささやかな売却益が実現できる段階で株式を売却してしまった。
その後にシュルツ会長は再び第一線に復帰し、今では中国本土への積極的な出店攻勢を推し進め、東京のスターバックス密度も格段に濃くなっているから、株価も相当上昇しているであろうが、かつての株主だった私も今は、書斎代わりに月に20回は近隣のスターバックスを根城にするヘビーユーザーとして株主に貢献する側にまわっている。