矯めつ眇めつ映画プログラム(24)「銀行」

 仏銀大手ソシエテ・ジェネラルの約7兆8千億円にのぼる巨額損失問題で、銀行トップが早々と元ディーラーの単独犯罪で組織的な関与は一切ないと宣言していたが、1月28日日経夕刊で、告訴された元トレーダーの弁護士が「ケルビエル氏は背信行為は一切していない。金も一切着服していない」と無実を主張し、「(同行は)ケルビエル氏を攻撃することによって、サブプライム問題で被った多額の損失から世間の関心をそらす煙幕を張ることができると考えたのだ」と強調して銀行側と全面対決する姿勢を示した事を知り、私は同じフランスのクリスチャン・ド・シャロンジュが1978年に監督した映画「銀行」を思い出した。


 この映画は、不正融資が政界スキャンダルにまで発展した詐欺事件で、保身と組織防衛を諮る銀行首脳によりスケープゴートにされた銀行員が、孤軍奮闘で巨悪と闘い、無実を証明するまでをスリリングに描いたもので、実話に基づいている事、トップスターのジャン・ルイ・トランティニャンとカトリーヌ・ドヌーヴが主人公夫婦を演じた事で、フランスで大ヒットになった作品である。


 ジャン・ルイ・トランティニャン扮する銀行の法定代理人は、頭取を心から信頼し自分の前途に疑問を抱く事もなかったのだが、ある日突然財務スキャンダルに巻き込まれ、頭取たちはすべての責任は彼にあると濡れ衣を着せ、彼が身の潔白を証明しようと周囲に訴えてみたが、これまで親しかった同僚からも全く相手にされず解雇される。


 新しい仕事を探そうにも、スキャンダルの汚名を着せられた彼を雇う者はなく、窮地に陥った彼は真相究明に乗り出す。気丈な彼の妻は情報集めに奔走して、夫の同僚でもあった情報部の女性を協力者に見出す。そしてその女性の口から幹部が融資に同意した証拠となる「白紙支払指図書」が資料室にあるはずだとの有力な情報を得、資料室に忍び込んで「白紙支払指図書」を探す主人公と、それを中止させようとする銀行首脳部との間で息もつかせぬ攻防が展開される。


 真相は、銀行首脳部が儲け話と乗った巨額の融資が、実は詐欺による不良債権と化し、これに伴って発生した使途不明金が銀行首脳による政治的賄賂に使われた疑惑も浮上して、首脳部が自らの保身と銀行組織を守るために、善良な主人公に一切を覆いかぶせ切り抜ける策謀であったのだ。


 はてさて、2008年初頭に世界金融市場を騒然とさせた、仏銀大手ソシエテ・ジェネラルの巨額損失問題が、どのような展開を見せるか興味あるところだが、爪の手入も入念にエレガントなスーツを纏った権力者が、組織と自分を守るために、勤勉で善良な部下をスケープゴートに仕立てる構図は、洋の東西・時代を超えて変わらないようである(写真はプログラムから)。