反グローバリズム〜EU離脱へ(2)

(2)映画「リトル・ダンサー」の主人公の父と兄の今を思う

父も兄も炭鉱労働者という家庭に育ち、強い男になるためにボクシングを習っていたはずの11歳の男の子が、隣のバレエレッスンを見ているうちに段々バレエに惹かれて、遂にロイヤルバレエ団のプリンシパルに昇り詰めるまでを描いた映画「リトル・ダンサー」(2000年)の背景に描かれていたのは鉄の女サッチャー首相の強硬な炭鉱労働組合潰しであった。


(写真は映画「リトル・ダンサー」プログラムから)

主人公の少年の父は炭鉱労働組合のリーダーで兄は過激派の活動家。ストに次ぐストで給料もまともに出ない時に、少年からロイヤルバレエ団のダンサーになるためにロンドンで勉強したいと聞かされた父親は激怒するが、息子の希望を叶える為に仲間を裏切ってストライキ破りを企てて兄と激しく対立する。それを知った労働組合の仲間は乏しい懐からカンパを出し合って、少年がロンドンでバレエの勉強をするための資金を工面する。

そして、15年後、ロンドンのウエストエンドの劇場で、少年の父と兄は、ロイヤルバレエ団の公演で主役を射止めた主人公が美しい白鳥の姿で登場するのを眼にする。  

2001年にこの映画を友人と見た時は、最終場面で登場した男たちの「白鳥の湖」に唖然としつつ、成長した主人公を演じたセクシーなアダム・クーパーにノックアウトされたのだった。

         
(写真は『白鳥の湖』東京公演プログラムから)   
          
そんな映画をなぜ今思い起すのかといえば6月23日のEU残留か離脱かを問うイギリスの国民投票で、18歳〜49歳の世代と大卒以上の高学歴者が残留を支持し、50歳以上と高卒程度の学歴の投票者が離脱を支持という内訳を知ったからである。

かつて、One World Economyという言葉が口の端に昇った時期があったが、これらのことばと同様に、グローバリズムやEUといった広域市場統合は、高学歴で高いスキルを持つ若い世代には多くの選択肢を与えるが、低学歴で未熟練の労働者や高齢者は新たに参入してくる低賃金もいとわない移民に仕事を奪われ片隅に追いやられることになる。

映画「リトル・ダンサー」に登場した少年の父や兄のように、1980年代にサッチャー労働組合潰しに真っ向から闘って敗れた炭鉱労働者たちは今回の国民投票でどちらを支持したのであろうかと思いを馳せてしまった。