矯めつ眇めつ映画プログラム(17)「リトル・ダンサー」

 映画「リトル・ダンサー」は2000年の作品で、ストの続発する炭鉱の町で、父も兄も炭鉱労働者という家庭に育ち、強い男になるためにボクシングを習っていたはずの11歳の男の子が、バレエダンサーになる話を描いている。


 労働者階級の描写はイギリス映画がピカ一だと私は何時も思っているが、ここでスティーブン・ダルドリー監督は、時代背景を鉄の女サッチャー首相の強烈なリーダーシップによる労働組合潰しのターゲットとなった炭鉱の町においている。


 主人公の少年の父は組合のリーダーで兄は過激派の活動家である。初め真剣にボクシングを習っていた少年が、隣のバレエレッスンを見ているうちに段々バレエに惹かれて、ボクシング選手よりもロイヤルバレエ団のダンサーになりたいと思って真剣に練習する場面が素晴らしい。しかしストに次ぐストで給料もままならない父親は、息子の希望を聞いた途端に怒って反対するが、最後には息子の希望を叶える為にストライキ破りを企てる。それを知った労働組合の仲間達が乏しい懐からカンパを出し合って、少年がロンドンでバレエの勉強をするための資金を工面する。


 そして、15年後、ロンドンのウエストエンドの劇場で、少年の父と兄は、ロイヤルバレエ団のプリンシパルに上り詰めた少年が、美しい白鳥の姿で登場するのを眼にする。


 この映画を2001年に友人と見たのだが、最後に白鳥となって現れた美しい男の姿に私たちは唖然とした。え!まさか、男の白鳥の湖!!この度肝を抜くEnd場面。監督の意図としては、ここまでバレエダンサーを目指した男の子の栄えある舞台が、クラシック・バレエの、女性の添え物的王子様ではつまらないと考えたところがさすがという気もする。


 そして、この時から、私と友人は寝てもさめても、最後にほんの少しだけ登場した、美しくてセクシーな白鳥姿のアダム・クーパーの虜になったのだ(写真は映画プログラムと「白鳥の湖」東京公演プログラムから)。