矯めつ眇めつ映画プログラム(16)「ぼくの好きな先生」

「ぼくの好きな先生」は「ルーブル美術館の秘密」を撮ったニコラ・フィリベール監督が、今度はフランス中部のオーベルニュ地方の小さな村の小学校にカメラを持ち込んで、2002年に撮影したドキュメンタリー映画である。


この村のたった一つの小学校は、3歳から11歳までの13人のクラスが1つだけで、ロペス先生が全ての生徒を一人で教えている。そして、ロペス先生は20年に亘って、この学校で数多くの生徒を教えて町の中学校に送り出し、間もなく定年を迎えようとしている。


冬に吹雪が舞うこの村の自然環境は厳しく、また生徒達の家庭も余り豊かとは言えず、年長クラスの生徒達は、牧場の手伝いをしたり、トラクターを運転したり、牛小屋の面倒を見たりと、学校から帰ると貴重な労働力の担い手となる。


そんな中で、ロペス先生は、子供達に読み書き、算数を始め、クレープの作り方を教えたり、大雪の日には橇を使った雪山滑りを教えたり、ズルをしそうな子には約束は必ず守らなければならないと諭したり、生徒達のけんかの仲裁をしたり、生徒の母親の相談に乗ったり、卒業を控えた二人の上級生には、これから進学する新しい中学ではお互いに支えあってゆくようにとアドバイスしたり、と、穏やかながらも厳粛な姿勢で対応する。


学年の違う13人の生徒に対して、一人で同時に授業をすることは並大抵ではないのに、ロペス先生は、今の仕事が本当に好きだと率直に述べている。そして一年後に定年を迎えてこの学校を去らなければならないのが寂しいとも。


ロペス先生に見守られた13人の子供達は、一人一人の表情がとても伸びやかで、エネルギーが横溢しているから片時もじっとしていない。そんな子供たちを通して、ロベス先生の子供達への愛情だけではなく、教育への情熱をひしひしと感じることが出来る。


この映画はパリで200万人近い観客を動員したそうだが、私が見に行った銀座の映画館も週日にも関わらず満席であった(写真はプログラムから)。