矯めつ眇めつ映画プログラム(13)「情婦」

 夫が殺人罪に問われ、事もあろうに妖艶な年増の妻が、夫の有罪を証明するために検察側の証人として出廷する。この度肝を抜くマレーネ・デートリッヒの登場から、名優チャールズ・ロートン扮する弁護士と検察との緊迫した法廷劇が息もつかせず展開する。


 映画「情婦」は、殺人を犯しても、一度無罪を勝ち取った判決を覆すことが出来ない規則を逆手にとり、妻の偽証で一度は有罪の判決を出させておきながら、その後に、妻の偽証を暴かせることで、夫の無罪を勝ち取るという、犯人と検事と弁護士の全知能をかけた闘いをスリリングに見せてくれる。そして、どんでん返しに次ぐどんでん返しの連続で、何時もは、男を破滅に導くファム・ファタール(運命の女)を演じるマレーネ・デートリッヒが、エンドマークの直前では、夫にコケにされていたという、あっと驚く結末を見せてくれる。


 この映画はアガサ・クリスティーの戯曲「検察側の証人」をベースにしたもので、ロンドンの劇場でこの戯曲が始めて上演された時は大喝采で迎えられ、終幕後「結末は決して誰にも言わないで下さい」という舞台上からのアナウンスも大受けで、大ロングランを記録したというエピソードが語り伝えられている(写真はプログラムから)。
 

        


        
    

  そういえば、2001年5月に友人とロンドンに行った時、ホテル備え付けの劇場ガイドに目を通していると、セントマーティンズシアターで、クリスティーの名戯曲The Mousetrap(ねずみとり)を上演しているのが目に付いた。1952年の初演以来半世紀近くもロングランを続けている事は知っていたが、実際に目で確かめたのは始めてであった。


 当時はその友人の旦那がロンドンに単身赴任をしていたので、次にロンドンに来る時は、是非The Mousetrapを見ようと話が纏まり、ストーリーをよく理解するには、事前に原書を読んだ方が良いということで、ロンドンからわざわざ送ってもらったのだが(下記写真)、彼の帰国が早まってその劇を見るのはいまだ実現していない。