矯めつ眇めつ映画プログラム(28)「フィフティー・フォー」

 映画「フィフティー・フォー」は、70年後半から80年代の語り草となったニューヨークのディスコ「スタジオ54」で、音楽とダンス・麻薬とセックスに酔いしれる人々の狂気と熱気を、一人の青年の目を通して描いた、マーク・クリストファー監督の1998年の作品である。


 ニュージャージーの郊外でうんざりするほど退屈な生活をおくっていた、ライアン・フィリップ扮する若者が、刺激を求めて仲間と「スタジオ54」に繰り出すが、入場審査が厳しく奇人オーナーに気に入られた彼だけが入る事を許され興奮の一夜を過ごす。


 一夜の強烈な体験が忘れられない若者は「スタジオ54」でウェイターとして注文取りから働き始め、友人の恋人の歌手との浮気や野心家の新進女優との愛と別れを経験しながら、先輩を差し置いてバーテンダーに昇格するや、ドラッグや女の手引きもこなし、彼自身も裕福な有閑マダムからセックスの相手として度々声がかる「スタジオ54」のセックス・アイドルに登り詰めてゆくのだが、同僚たちの足の引っ張り合いや激しい嫉妬にさらされ消耗していくうちに、スタジオはオーナーが脱税で逮捕されたことにより閉鎖を余儀なくされる。


 札束を敷き詰めた部屋の真ん中に寝転んでオーナーが札束を舞い上げる場面での、金の亡者振りを演じたマイク・マイヤーズの憑かれたような眼つき、大掛かりでケレン味タップリなスタジオの仕掛け、金ぴかの衣装、セックス・アピールムンムンの歌手やバーテン達、選ばれた存在に酔いしれる俗臭芬々たるセレブや物欲しげな有閑マダム達、ある時期の、夜のニューヨークの「爛熟」と「退廃」をこれでもか、これでもかと目の前に見せてくれて私の好奇心を大いに満たしてくれた映画であった(写真はプログラムから)。