矯めつ眇めつ映画プログラム(3)「飾り窓の女」と「めまい」

 ファム・ファタール(運命の女)とは、妖しい魅力で男の運命を狂わせる女を意味するが、殆どはサスペンスフルな映画を出番とする。

 これまで私が見た映画のファム・ファタールの極めつけは、1944年にドイツからアメリカに亡命した直後のフリッツ・ラングが撮った「飾り窓の女」と、1958年にアルフレッド・ヒッチコックが監督した「めまい」である(写真はプログラムから)。

 「飾り窓の女」では、心理学の大学教授が、飾り窓に描かれている美しい女と瓜二つの女に出会って、彼女を守るために、殺人を犯し、その為に脅迫され、どんどん窮地に陥ってゆく。最後にどんでん返しがあるのだが、神秘的で控えめでさえあるジョーン・ベネットの美しさに、男が魅了されてゆくのが、画面からひしひしと伝わってきた。


        


               


 「めまい」は、高所恐怖症で犯人を取り逃がしたため刑事を辞めた男が、その、症状ゆえに、妖艶な金髪の美女と愛人の企てる犯罪に利用されてゆく。この映画でのキム・ノヴァクは、金髪の煌きといい、肌の艶といい、誘い込むような眼の表情といい、とにかく、妖艶としか言いようがないため息の出るような美しさであった。
 

         


         
   


 時代の制約もあったと思うが、この2作品にはセックスシーンは無く、美しく妖艶な女が、目付きやちょっとした仕草で男たちを魅了して、ズルズルと犯罪に惹き込んで行くのである。その男と女のやりを通して関係が変化してゆくありさまが観る者を緊張させる。

 そういえば、最近の映画は露骨な色仕掛けで男たちを犯罪に引き込む「ファム・ファタール」ばかりになってしまった。果たしてそういう女を本来の意味での「ファム・ファタール」と呼んでいいのかどうか。