彼方の記憶(2)ミケランジェロ還暦後の快挙




「The Sistine Chapel A Glorious Restoration」は前回と同様にBook-of-the-Month-Clubの特典で入手した一冊である。(http://d.hatena.ne.jp/K-sako+kankyo/20161217/1481942408

この美術書は、バチカン美術館と当時のイタリア在住の日本人写真家、岡村崔氏(2014年2月に86歳で亡くなられた)との協同による、大修復直後のシスティン礼拝堂天井絵を、300枚の美しい写真に収めた大分なアルバムであり、どのページをめくっても、力強いミケランジェロの気迫が立ち昇ってくる。

また、子供達の頬の柔らかさ、苦悩する顔の皺の深さ、かっと見開いた眼の勢い、慈しむ目の優しさ、突き出した腕の筋肉の堅さ、指の先から放出するエネルギーの強さ、口から漏れるうめき声など、部分、部分における描写をじっくり味わえるのもこのアルバムの魅力である。

しかし、ミケランジェロのこの作品は、あくまでも、床から天井を仰ぎ見て、初めて作者の意図や、作者の吹き込んだエネルギーの方向が感じられるように造られている。「やはりローマに行かなければならないか!」、が、本書を手にした直後の私の実感であった。

あれから30年近くを経て、私は、パナソニック 汐留ミュージアムで開催された「ミケランジェロ展 - ルネサンス建築の至宝」(2016年6月25日〜8月28日)に足を運んだのだが、そこで、システィーナ礼拝堂天井絵が、旧約聖書から「創世記」の9つの場面と12人の預言者と巫女を天井画という建築的な枠組みのなかに見事にひとつにまとめあげたものであるとともに、顔面に絵具をしたたらせながら、のけぞるように立ったまま描くという至難の姿勢によって生み出されたという事、さらにはミケランジェロが61歳から66歳に手掛けた作品であることを知り大いに驚かされたのだった。