矯めつ眇めつ映画プログラム(18)「暗殺の森」

 映画「暗殺の森」は、ベルナルド・ベルトルッチが1970年に29歳の時に監督して、彼の名を一躍世界に知らしめる事になった作品である。物語はヨーロッパのファシズム台頭を背景に、体制に順応してファシストとして生きることを選んだローマのブルジョア青年が、巴里に亡命中の恩師を暗殺する任務を与えられそれを実行する。この映画の原作はイタリアの文豪、アルベルト・モラヴィアの「孤独な青年」である。


 アルベルト・モラヴィアは、ジャン・リュック・ゴダールが監督し、ブリジット・バルドーが主演した映画「軽蔑」の原作者としても知られているが、イタリアブルジョワ階級の退廃を深く掘り下げ、克明に描写した作家で、1929年に発表された彼の21歳のデビュー作「無関心の人々」は、その内容が余りにもスキャンダラスであったが故に、ファシスト政権から発禁処分を受け、しばらくは、かなり厳しい作家生活を余儀なくされた。



          



 映画「暗殺の森」においても、ジャン=ルイ・トランティニャン扮する主人公の薬中毒の母親と運転手との関係、そしてドミニク・サンダ扮する恩師の若くて知性的な妻と、ステファニア・サンドレッリ扮する主人公の知性の足りない妻とのレズビアン関係にブルジョワ階級の退廃を見る事ができる。特に後者の、公共の場のダンスシーンでは、男女のカップルでは見られない濃密で艶かしい雰囲気が漂い、私は思わず生唾を飲み込んだ(写真はプログラムから)。