一夜に二人の最高裁判事が暗殺された異常な事件の真相を、法学部の女子学生が仮説にまとめ、そのレポートを恋人の法学部教授に渡したことから殺し屋に追われる恐怖を描いたのが、アラン・パクラがジョン・グレシャムの同名小説を1993年に映画化した「ペリカン文書」である。
女子学生のレポートは恋人の法学部教授を驚かせ、彼が友人のFBI特別顧問へレポートを渡したことから、彼ばかりでなくその友人のFBI特別顧問も何者かに殺害され、さらには、レポートが政界スキャンダルの真相を突いていた事から、一夜にしてFBI長官、CAI長官、大統領補佐官、大統領の手に渡り「ペリカン文書」と名付けられて厳重に保管される。
一方女子学生は、身に迫る殺し屋から逃れるために、孤立無援の中を男の子に扮装して、ニューオリンズの場末のホテルを転々とするが、目の前で暗殺実行犯が殺されるに及んで、ワシントンの敏腕記者に連絡を取り、ペリカンの生息する湿地帯を巡って開発業者と環境保護派の訴訟争いが生じ、政界と繋がる開発業者の手により環境保護派の最高裁判事が二人暗殺された真相を突き止めたために、自分の命が狙われていることを打ち明ける。
スピーディな事件展開、ひしひしと迫る恐怖感に加えて、女子学生に扮したジュリア・ロバーツのキュートさと、敏腕記者に扮したデンゼル・ワシントンの若々しくて敏捷な身のこなしが印象的で私にとって忘れられない映画となった。
ところで、女子学生がパソコンに向かって一夜で仮説をまとめるシーンがあるが、映画制作時の1993年は、Windows95どころか、私たちに衝撃を与えたWebブラウザーのNetscape Navigatorも普及しておらず、いわゆるインターネットの黎明期であった。
私達がインターネットに参入する呼び水となったNetscape Navigatorの普及は1994年を待たねばならず、多分、映画の女子学生は、日本においてはごく一部の先端者しか活用していなかった検索ブラウザーMosaicを駆使して、関係情報を収集し、収集した情報を自分の考えに沿って編集して仮説にまとめ上げたのであろう。恋人の法学部教授すら思いつかなかった真相を突き止めたのであるから、この女子大生のITスキル、情報収集力、編集力、そしてその頭脳に感嘆するばかりである(写真はプログラムから)。