フランソワーズ・サガンの同名小説を原作にした、映画「厚化粧の女」は、エーゲ海を航行する豪華客船を舞台に、ブルジョワ階級の様々な人間模様を見せてくれるが、その中でも、金持ち女のジゴロになることを目論んで船に潜り込んだアントニー・ドロン扮する若い男と、ハンサムな若い彼を即座に自分のジゴロの座に据える、ジャンヌ・モロー扮するオペラのプリマドンナとのなりゆきに惹き込まれる。
唖然としたのは、初老のプリマドンナが、自らの誕生パーティの席上で「年下の男が好みだと、誕生日を重ねる度に恋の対象が増えて嬉しいわ」と豪語するところ。この台詞はさすがにジャンヌ・モローでなければ口に出来ないと感嘆する。
これまでも数多く浮名を流してきたプリマドンナは、航海が終わりに近づくころには、ためらいもなく若いジゴロをさっさと捨てるのだが、彼はそれを悲しんで海に飛び込んで死んでしまうのだ。
どうやら、未熟な彼は「本気で相手を愛してはいけない」という、ジゴロのプロとして生きる心構えが出来ていなかったようだ。ジゴロはあくまでも職業なのだ(写真はプログラムから)。