独り善がり読書(1)モース主任警部のお国では補聴器は国民健康保険の対象!

2007年11月13日の日経夕刊の「早めの補聴器 不便解消」の記事に思わず目が行ったのは、遠からず私も直面する問題であったばかりでなく、「75歳以上普及率わずか一割」の小見出しに惹き付けられたからである。

 

 

 というのは、私は「補聴器は国民健康保険の対象」と何となく思い込んでいたので、耳が遠くなる人の比率の高い75歳以上の普及率が僅か一割に合点がゆかなかったのである。

 

記事を読み進めると、その当時の補聴器の値段は耳掛け形で片耳が8万円から、耳穴形が13万円から40万円程度と、年金生活者にとって決して安い価格では無い。これが全額自己負担であれば、75歳以上の普及率が一割は仕方が無いかと思う。

 

ところで、私が全巻を読破した、イギリスの作家・コリン・デクスターの、オックスフォードを舞台にした「モース主任警部」シリーズでは、何故か補聴器がよく登場するのだが、それは国民健康保険で支給されたものであった。

 

その事が何故私の印象を強めたかといえば、オックスフォード大学の特別研究員といったイギリスでも最も尊敬された地位と報酬の高い学者すら国民健康保険支給の補聴器を使っているので可笑しくなったからだ。

 

 今回の日経の記事を機会に改めて手持ちのシリーズ(いくつかは終活ならぬ地震対策で高い書棚を処分したときにかなりの書籍を処分あるいはBOOK-OFFに持ち込んだので)をじっくり見直したところ、補聴器常用者で、海外学力検定試験委員会の審議委員を勤める学者が読唇術に長けた為に殺される「ニコラス・クインの静かな世界」と、オックスフォード大学でも最高の名誉とされる学寮長ポストを巡る殺人事件を描いた「謎まで三マイル」で国民健康保険支給の補聴器が登場したばかりか、「キドリントンから消えた娘」では国民健康保険対象の旧式の眼鏡まで登場している。

 

 

 かつて、大英帝国として勢いのあったイギリスは、「揺籠から墓場まで」の高福祉政策を高々と掲げていたのであろうが、モース主任警部シリーズの舞台はそんなに古い時代ではないので、眼鏡はともかくとしても、補聴器は今でも国民健康保険の対象ではないかと私は推測している。

 

 再度強調するが、年金収入が中心の高齢者にとって、片耳で8万円以上もする補聴器は大きな負担だ。しかも、老化で聴覚が衰えるのは誰にでも生じることで、「生活の質」以前に、事故から身を守る、あるいは自らが事故を起こさないといった、生きてゆくうえで補聴器は不可欠だから、日本でも国民健康保険の対象にして欲しい。