矯めつ眇めつ映画プログラム(45)「緑の光線」

  若い娘にとって、一緒に過ごす恋人や友人のいない長いバカンスがどんなに孤独でいたたまれないかを、内気でパッとしない一人のパリジェンヌを通して、エリック・ロメールが瑞々しい感覚で1986年に描いたのが「緑の光線」である。


 待ちに待った夏のバカンス、早々とギリシャ旅行を計画していたのに、直前になって誘っていた友人からキャンセルの知らせが入り、デルフィーヌ(マリー・リヴィエール)は呆然として何も手につかない。


 そんな彼女を慰めるために女友達がシェルブールに行こうと誘ってくれる。太陽は燦々と降り注ぎ、海は青々として眺めも申し分無く、友人の仲間は海辺ではしゃいでいるのに、心の弾まないデルフィーヌは一人でぼんやりと海を眺めるばかり。


 ひと気のないパリに戻ったデルフィーヌの孤独はますます深まり、公園を散歩したり山に登ったりして時間をつぶすが、再び訪れた海で、太陽が沈む瞬間に放つ緑の光線を見た者は幸せを掴むというジュール・ヴェルヌの小説「緑の光線」について話合っている老婦人たちの会話を耳にする。


 海に舞い戻っても孤独が癒されるわけでもなく、パリに戻ろうと向かった駅の待合室で本を読む青年に出会い、何気なくデルフィーヌの方から声をかけ、意気投合して散歩に出かけた海辺のベンチで、二人は太陽が沈む瞬間に放つ緑の光線を見つめるのだった。


 フランスの夏のバカンスは一ヶ月くらいあり、GWでも精々一週間前後しか休めない日本と比べると何とも羨ましい限りだが、仕事よりも愛し合う事の方が大切なお国柄で、カップルが当たり前の社会では、夏のバカンス、冬のクリスマス休暇は恋人のいない者にとっては堪え難かった、と、いうのは、グローバル経済に巻き込まれる前のフランスのお話か。ましてや、市場経済志向のサルコジ大統領が出現した今は、そんなに悠長に休暇を楽しめる状況ではなさそうで、ゆとりのない生活は日本やアメリカに近づいているかもしれない。


 「緑の光線」は1920年生まれのロメールが66歳の作品で、ファッションセンスも含めて何とも若々しいと感嘆させられたのだが、1984年に「満月の夜」を観て以来、「友だちの恋人」「春のソナタ」「冬物語」「夏物語」etc.と、若い男女が、ひたすら喋りながら連綿とホレタ、ハレタを展開するロメール作品に魅せられて「シネヴィヴァン六本木」に通ったのだった(写真は映画プログラムから)。