矯めつ眇めつ映画プログラム(35)「アンジップト」

 チビで小太りの私はとても先端のファッションを着こなす体型とはいえないが、生まれながらの新し物好きで、ファッション雑誌でも相当の通が読むとされていた「流行通信」をかなりの期間、最寄り駅に隣接する書店から購入していた。ニューヨーク・コレクションでホルストンやビル・ブラスが社交界人士を対象に、豪華なベルベットやシフォンで細いウエストを強調したエレガントなシルエットを発表していた頃である。


 そんなわけで、1990年代のニューヨーク・ファッションはいかに、と、ファッション写真家ダグラス・キーヴが、アイザック・ミズラヒの94年秋冬コレクションの舞台裏をドキュメントした「アンジップト」を、ワクワクしながら観に行った。


 モダンな構築美と鮮やかな色彩で注目を集めたアイザック・ミズラヒが如何に支持されていたかは、ナオミ・キャンベルケイト・モス、リンダ・エヴァンジェリスタ、ヘレナ・クリステンセン、シンディ・クロフォードなど錚々たるモデルがステージに登場し、ライザ・ミネリリチャード・ギアカイル・マクラクラン等の大物スターや、エルやヴォーグなどのファッション編集者たちが観客席を彩っていた事からもうかがえる。


 自ら選曲した最先端のポップ・ミュージックを背にモデルたちが踊るようにステージを踏むシーンの合間に、ふっくらとした表情のミズラヒがファッションに対する考え、今の時代をどう捉えるか、ゲイとしての日々の暮らしなどを柔らかい口調で語るのを観ると、この映画がダグラス・キーヴ監督との親しい関係から生まれた作品である事がわかる。


 また、喧騒につつまれた楽屋裏で、タバコをふかしたり、服をスタッフに調整させながら大声を張り上げたり、探している靴が見つからないとわめいたり、仲間やスタッフとお喋りする、取り澄ましたステージの姿とは打って変わった素顔のスーパーモデル達が見られたのも私の好奇心を大いに満たしてくれた。


 さて、2008年初頭の今、ホルストン・ブランドの復活が話題になっている。私は未だ一度目にしていないが多分70年代とは異なっているであろう。しかし、代替わりしても継続するファッションブランドはたくさんあるが、アイザック・ミズラヒのブランドはうたかたのように儚かった(写真はプログラムから)。