矯めつ眇めつ映画プログラム(34)「パリ、18区、夜」

  「パリ、18区、夜」は、女性監督クレール・ドゥニが、1987年の老女連続殺人事件と絡めて、人種の吹き溜まりと呼ばれるパリ18区に暮らす人々を、マルチニック出身の黒人青年とリトニアから女優を目指してきた若い女性にスポットを当てて描いた1994年の作品である。


 女優を目指してオンボロ車を駆ってリトニアからやってきたダイガが、住み込で働く事になった18区のホテルでは、貧しい国を脱出して仕事を求めてパリに流れ着いた様々な人種の人たちが暮らしていた。ゲイの恋人と一緒に暮らすマルチニックの黒人青年カミーユもその一人で、彼は夜毎ドレスを取替え黒い肌も露わに妖しい雰囲気を撒き散らしながらゲイバーで歌っていた。


 その頃18区では一人暮らしの老女を狙った連続殺人が発生して街は恐怖に包まれていた。犯人はひ弱な老女に親切ごかしで近づき、老女が気を許した隙を狙って殺害し金を奪って逃走していたが、犯人が殺したと思った一人の老女が息を吹き返し、警察は彼女の証言で犯人像を割り出すのに成功していた。


 ダイガは「女優になれるよ」と声を掛けてくれた演出家に会いに行くが一時しのぎの言葉だったことが分かり、車を売ろうと立ち寄った店で警官から老女殺人犯の写真を見せられる。犯人が同じホテルのカミーユとその恋人だと知ったタイガは、彼らが警官に連行されるや二人の部屋に忍び込み、隠していた金を車に積んでリトニアに帰って行く。


 「パリ、18区、夜」は、サクレクレール寺院やモンマルトルの丘といったツアーガイド片手に私達が散策するパリとは全く異なる光景をスタイリッシュな映像で淡々と見せてくれる。貧しさから脱するために母国か脱出して漂着した場所で、将来の見通しも無く社会の最下層であぶくのように生きるしかない人々の暮らしを(写真はプログラムから)。