ウェブ進化と21世紀の隠者ならぬ隠居生活

K-sako2007-11-14

  「経年劣化」は電化製品だけにあるのではない。五十肩になって4ヶ月になるが、これも立派な人間の経年劣化である。

 ある日突然肩に痛みが走り、腕を後ろに曲げるのにえらい難儀をする。てっきり運動不足が原因かとせっせとストレッチをしてみたが益々症状は悪化し、行きつけのクリニックに駆け込むと、医師は「典型的な五十肩ですな、痛みは必ず引きますよ」と楽観的だった。

しかし、その何時か、が、半年先か2年先かは個々の患者次第のようで、今は医師の処方に従って治療薬を飲み、入浴後のストレッチを欠かさず、症状が回復するのを待つしかない。こんな状態だから、肩に障るパソコン操作は控えなくてはならないが、足腰の動きや脳の働きが衰えるわけではないので、この時とばかり、せっせと本を読み、友人とのお喋り、古書漁り、さらには国会図書館詣でと、結構活発に過ごしている。

そんな日々の中で出会ったのが梅田望夫著「ウェブ進化論」だ。これはかなり前に話題になった本だそうで、週遅れもいいところだが、シリコンバレーに拠点を置く著者が今後のウェブの世界の展開を分かり易く提示したもので、ウェブ上で「ロングテール」現象なるものが生じている事も始めて知った。時代に取り残されていたのだ、私は。

著者はテクノロジーの人なのに、言葉運びが痒いところに手が届くほどていねいで、何よりも表現者の立場から、ウェブ進化の方向をポジティブに捉えているところが気に入り、人気作家平野啓一郎との対談集「ウェブ人間論」まで一気に読んでしまった。

ウェブ人間論」では、当代の人気作家平野啓一郎表現者として、そして文筆を飯の種とする者として、ウェブの将来を不安と期待を交えて積極的に梅田氏と議論を戦わせているが、彼らの白熱した(字面からも感じられる)語り合いを通して、私は自分が引退生活者としてウェブの時代に遭遇する事の幸運を認識しているところである。

で、勢いがついて次に、脳科学茂木健一郎氏との対談集「フューチャリスト宣言」を読み始めている。最近の出版業界は、すぐ役立つハウツー物が氾濫して、これも日本の閉塞状態を物語っているのかと食傷していたが、ある面で気宇壮大とも言えるビジョンを語り合う二人の対談に、久し振りに爽快さを感じている。

他方で、飽きもせずに、またまた神保町を徘徊して、ビジュアル主体の「井原西鶴」「方丈記徒然草」(共に新潮社刊)を買ってしまった。五十肩でも目と脳は活発に働くのだから旺盛な読書欲に持って来いの本たちといえる。

その「方丈記徒然草」の中で、山崎正和氏は「方丈記徒然草も日本の随筆文学の代表的古典とされているが、生計の主要な手段ではなく余技から生まれた産物である」と述べ、さらに「随筆はイギリス文学が得意とする分野であるが、イギリスはアマチュアリズムの国であり、余技を尊ぶ精神を養ってきた」と述べている。

21世紀の隠者ならぬ隠居生活者を生きる私は、ウェブを活用して余技としての表現を発展させてみたいなどと不埒な考えをしております。