慎ましい年金生活者になっても、贔屓の歌舞伎役者の追っかけは続けたい。出来れば一等席で。そんな気持ちが高じて東京都の都民向けサービス、歌舞伎座の一等席券を半額で入手できる「都民半額劇場」に応募している。仕組みは、幾つかの対象公演の中から、自分の希望する公演番号を往復葉書に記入して投函する。当選すれば指定日の9時半から指定の場所で代金と入場券を引き換える。早く行かないといい席を確保できない。
私は仁左衛門の熱烈なファンで彼の公演しか応募しない。6月公演では「恋飛脚大和往来」の封印切りの八右衛門、新口村の孫右衛門を堪能した。この演し物では、仁左衛門は、長年、看板の忠兵衛が当たり役であったが、ここは若手の染五郎、孝太郎を引き立て、嫌われ者の八右衛門を楽しんで演じていたような気がする。老境の孫右衛門も、彼が演じると悲嘆な中にも、可愛らしさが滲むから不思議だ。
サラリーマン時代は、ほぼ2ヶ月に一度の頻度で、一等席券、豪華なプログラム、幕の内弁当とけっこう贅沢な歌舞伎鑑賞を謳歌した。しかし年金生活となると、プログラムを買わず、お弁当とお茶とオペラグラスを持参しての、慎ましい贔屓役者の追っかけになる。
写真は歌舞伎鑑賞キット