矯めつ眇めつ映画プログラム(21)「ドライ・クリーニング」

 「読書する女」のミュウ=ミュウが、生活にくたびれた中年主婦を演じる「ドライ・クリーニング」は、美貌の女性監督アンヌ・フォンテーヌが、倦怠期のクリーニング店を経営する夫婦に襲った危機を描いた1997年の作品である。


 スイス国境の小さな町でクリーニング店を経営する夫婦は、同業仲間と酒場のドラッグ・クイーンのショーを楽しむが、ひょんな事から主役を演じた美青年を店の手伝いに雇うことになる。


 青年は仕事の覚えも早く、客あしらいも良く、何より一人息子が彼になついて、一家は久し振りに賑わいを取り戻すのだが、日々の商売に追いまくられ、優しいだけの夫との結婚生活に物足りなさを感じていた妻は、やがて両性具有の妖しい魅力を持つこの美青年に魅了されて、夫の目を盗んで関係を持つようになる。


 二人の関係に気づきながらも気の弱い夫と猜疑心の強い姑は見て見ぬ振りをして、一人息子と青年の仲むつましさを遠巻きにして、表面的には和やかな一家団欒を装うのだが、青年が大胆にも夫を誘惑した事から事態は急展開する。


 小心で善良な夫は、これまで抑えに抑えていた怒りが一気に爆発して、思わず青年を殺してしまうのだが、それを知った妻は、顔色一つ変えずに夫と一緒に青年の死体を始末し、何事もなかったように再び元の生活を始めるのだった。


 クリーニング屋夫婦を襲った危機を「ドライ・クリーニング」と名付けるところに、フランスらしいエスプリを感じてしまいます。


 《余談》大ベテランのミュウ=ミュウを相手に、デビュー作とは思えないくらい堂々と誘惑者を演じた美青年スタニスラフ・メラールは、程なくして、フランス映画界に君臨するイザベル・アジャーニを虜にしたそうで、画面を見ているとそれも頷ける(写真はプログラムから)。