「矯めつ眇めつ映画プログラム(6)「アメリカの友人」

 私はパトリシア・ハイスミスのミステリーが大好きで、非情で、クールで、洗練された物腰で完全犯罪を成し遂げる悪党の描写が巧みなことに心酔している。


 映画「アメリカの友人」は、その、ハイスミス出世作となった「太陽がいっぱい」の魅力的な悪党、トム・リプレーのその後を描いた「贋作」と「リプレーのゲーム」をベースに、ヴィム・ベンダースが1977年に監督した作品である。


 物語は、死んだはずの画家の贋作を競売にかけながら、マフィアとの危険な取引にのめり込んでゆくデニス・ホッパー扮するトム・リプレーが、ブルーノ・ガンツ扮する、白血病で将来の不安におびえるハンブルグの貧しい額縁職人を、大金と引換えに、一度目はパリの駅舎での殺し屋の殺害、二度目はハンブルグでのマフィアの殺害に引き込んで行く。最初は小心で臆病者であった額縁職人が、一度、二度と殺人を犯すごとに大胆に変貌してゆくのが見所のひとつである。


 さらには、ハンブルグ、パリ、ニューヨークを犯罪都市としての側面から描いているのも魅力的だ。そして、何よりも愉快だったのは、贋作画家に扮したニコラス・レイ、マフィアのボスに扮したサミュエル・フラー、額縁職人に殺されるプロの殺し屋に扮したダニエル・シュミットの錚々たる映画監督たちが、強烈な面構えと迫力で、一癖も二癖もあるある主演のデニス・ホッパーブルーノ・ガンツを完全に喰って観客を楽しませてくれたこと。とにかく彼らが登場するだけで画面に暗黒街の空気が漂う。私はデニス・ホッパーのファンだが、今回はこの三人の怪物監督に脱帽してしまった。


 そういう意味では、この映画はヴィム・ベンダースの、大先輩でもある三怪物監督へのオマージュでもある。さぞかし、撮影中は波乱万丈で活気に満ちていたであろう(写真はプログラムから)。