矯めつ眇めつ映画プログラム(5)「本覚坊遺文〜千利休」

 押さえた色調の美しい映画であった。そして悔しいことに女性が一人も出ない映画であった。映画「本覚坊遺文〜千利休」は、井上靖の原作を、熊井啓が1989年に監督した作品(ベネチア映画祭監督賞受賞)で、「千利休は何故秀吉の怒りをかい、甘んじて腹を切らなければならなかったか」に、焦点を当て、利休晩年の弟子であった本覚坊が回想する形で描いている。


 織田信長豊臣秀吉といった戦国時代の天下人に重用された侘茶は「死」を前にして、あるいは「死ぬ事」を前提にして、「戦を前にしてこれが最後かもしれない」という極限状況の中で催されていた。まさに「一期一会」である。


 そんな緊迫した日々の中で、時には秀吉にも、茶の師である利休に対して、自分が召抱えている立場にも拘らず、利休の悠々とした大きさに気後れして、苛立ちや対抗意識を燃やすこともあったのではないか。


 利休だけでなく、利休の高弟の古田織部も主君に切腹を命じられ、山上宗二も主君に襲われ共に死ぬ運命を甘受していた。茶は信長、秀吉、家康たちの庇護を受けたからこそ、今日まで営々と隆盛しているけれど、ここに至るまでには、天下人と茶人との間に壮絶な葛藤があったのだという事をこの映画は教えてくれる。


 日頃、茶器とか掛け軸とか、お手前とか、着物姿とか、セレモニーとしての華やかさにばかり目が行きがちな茶であるが、利休のかかげた「一期一会」の本来の厳粛さに立ち返ることが出来た映画である(写真はプログラムから)。