隠居のHarvard Summer School 留学記(6)

2004年7月4日(日)
【時間を生む工夫 その1】

サマースクールの授業は、教室に臨む前に既に10〜20ページの講義資料に目を通して内容を把握している事を前提にして、授業ではクラスメートを前に自分の考えを述べたりクラスメートの意見に質問する、あるいはグループ討議で積極的に意見交換することが求められ、その後は理解度を示すテストかレポート提出を終えて、山のようなホームワークを与えられて教室を退出する。

ところが、私がこれまで学校や英会話学校で受けた授業を通して予想していた授業方法は、先ず私たちのようなBレベルという大して英語力のない学生には、最初は教師がネイティブスピーカーの様なクリーンな発音と正確な文法などの基本を教え、ある程度のレベルに達してからチームやグループ活動を基本にして互いにコミュニケートする方式に移行すると思っていた。

そんなわけで、初っ端からいきなり、多様な国から集まって発音も文法もまちまちな、大してレベルの高くない英語力の学生同士で、チーム活動やグループ討議を行わせるとなると、能力が不足している分だけ予習や復習に時間をかけないと、相手の言っている事が分らないだけでなく自分の意見も相手に伝わらない。

目の前の現実を通して、つくづく自分の英語力不足を自覚させられた私は、これまで予習・復習・ホームワークをこなすために平均3時間の睡眠で凌いできたが、還暦を迎えた身にはそろそろ限界になりつつあった。

ここまで追い詰められると、どこかで時間を生む工夫が必要だ。あれこれ思案してカフェでの朝食を寮の自分の部屋で予習やホームワークをこなしながら摂ることにした。寮からカフェまで徒歩で片道10分余、到着しても長蛇の列で受付を待ち、トレーを抱えてさらに列に並ぶ時間が勿体ない。また、そのまま歯も磨かずに教室に向かう事にも抵抗があった。

といっても寮にはお湯を沸かす設備もないが、コーヒー好きの私は友人から格安で譲り受けた携帯コーヒーメーカーで珈琲を点て、学校から支給されたロゴ入りマグカップ(下図写真)で淹れたてのコーヒーを楽しんでいた。

そこで、食料品店から紅茶のティーバッグと蜂蜜を購入し、朝シャワーを浴びている間にコーヒーメーカーでお湯を沸かしてロゴ入りマグカップで蜂蜜入り紅茶を作り、夕食時にカフェテリアから持ち帰ったリンゴを齧ることにした。ここのリンゴは小振りで甘くておいしいのだ。

こうすると登校ギリギリまで勉強ができるのだが、悪戦苦闘しながら勉強している部屋の開け放した窓から、声高に喋りながらカフェテリアに向かう学生たちの姿が目に入り彼らの余裕が羨ましくもあった。


2004年7月5日(月)

【ボストン名物花火大会】

今日は三連休の最終日、寮仲間たちは昨夜のアメリカ独立記念のボストン花火大会をキャンパス内に流れるチャールズ・リバー河畔に陣取って楽しんだとか。

私の方は友人夫妻の夕食に招待されて彼らのメキシコ旅行土産のワイン、チーズ、本場のタコス、それに料理上手な夫人・Sさんの手料理に舌鼓をうちながらしばしのお喋りを楽しんだ後で、そこから徒歩10分のMIT(マサチューセッツ工科大学)に近いチャールズ・リバー河畔に陣取って花火を楽しんだ。

ハーバード在住足かけ10余年の友人夫妻は長年この花火大会に繰り出しているので、もっとも良く見える場所に陣取る事が出来たのだが、結果的に場所が良すぎて、常に頭上に満開の花火を仰ぎ見るハメになり、終わった時は首が痛くて大変だった。

噂にたがわず見渡す限り隙間なく埋め尽くした人・人・人で彼らの多くは花火開始時の半日前から場所を確保していたようで、麦酒やコーラを片手にお祭り騒ぎもいいところだった。そして「星条旗よ永遠なれ」のメロディーが流れると皆一斉に身体を左右に振らす彼らを眺めていると、日本とは異なり多民族で人工的に一つの国家を形づくったアメリカという国の愛国心を感じる事が出来た。

花火は大仕掛けでカラフルであったが、全てコンピューターで制御されているそうで、機械的にポンポンと進み、おまけに「たまやー」「かぎやー」の掛け声は望むべくもないので情緒に欠け、人工的な感じは拭えない。

もっともアメリカ建国は1776年、片や花火の鍵屋の創業は1659年(萬治二年)、時の集積が違い過ぎるか。それでも友人夫妻によれば今年はこれまでで一番華やかであったとのこと。

行きは良い良い、帰りは怖い。元々電車の間隔が15分か20分に1本のところに、ボストンの地下鉄運営者は大きなイベントを見越して臨時便を増発するなどといった臨機応変な対応をするほどサービス精神もないらしく、最寄りのKENDALL駅では、コインしか使えないトークン(乗車券に相当)売り場に並んだ人たちが野外に長い列を作っていた。これでは何時電車に乗れるか分からない。

写真はMITの最寄り駅 KENDALL ホーム


       
仕方が無いので、こちらも発着時間が全く当てにならないバスに乗ることにした。こういう時にハーバードは本当に田舎だと思う。なかなか来ないバスにやきもきしながら停留所で立ったまま20分程待ったところでやっとバスに乗れて、ハーバードスクエアで下車した時は真夜中の12時半。夜道が怖い私は心配だったが、さすがにこの日は街全体がお祭り気分で、寮が集合するエリアは人の出入りが頻繁で無事に帰り着けた。