矯めつ眇めつ映画プログラム(1)「クリントンを大統領にした男」

 サラリーマン時代の私は度し難い映画狂で、週末になると待ちかねたように映画館に駆け込んだものだった。私の映画の見方は監督が主体で、特に、ウディ・アレンロバート・アルトマンアキ・カウリスマキペドロ・アルモドバルジム・ジャームッシュエリック・ロメールが大好きで、彼らの作品が上映されると今でもすぐ腰を上げる。

 しかし、これまで足を運んだ映画館は何故かミニシアターが中心で、特に六本木にあった「シネヴィヴァン」は、当時はマイナーであったアキ・カウリスマキエリック・ロメールペドロ・アルモドバル作品の面白さを教えてくれた意味でも、同じ映画の趣向を持つスタッフと観客が同じ空間で面白さを共有するという、ミニシアター特有の映画館の楽しみ方を味あわせてくれた意味でも今でも捨てがたい。

 今では人も羨むシニア割引の特権を手にしながら、このところ、かつての映画狂の足が、めっきり映画館から足が遠のいているのは、昔ほど魅力的な映画がすくないという事の他に、これまで400本近く映画を見たので、つまりインプットが多すぎて「映画満腹」状態にあるのではないかと思っている。インプットが多すぎればアウトプットをしなければならないのは事の道理。

 そこでアウトプットを兼ねて、これまで買い集めた映画プログラムを手に、矯めつ眇めつししながら、主として古い作品・マイナーな映画の中から、強い印象を受けた作品を思い起す事にした(写真は全て映画プログラムから引用)。

 さて、今、アメリカは、来年11月に向けて大統領選挙戦たけなわ、ヒラリー・クリントンオバマ候補の接線も伝えられていますが、ここに取り上げる映画は1992年製作の「クリントンを大統領にした男」。

    
      

 この作品は、当時の現職大統領ブッシュ(シニア)とクリントンの選挙戦を、クリントンのキャンペーンサイドからリアルに描いた映画で、この映画では候補者クリントンは単なる脇役で、ヒラリーに至っては単なる通行人の役割に過ぎず、クリントン夫妻にカメラの焦点が当たることは殆ど無かった。

 カメラは、ひたすらクリントンを劇的な勝利に導いた選挙参謀ジェムス・カーヴィルと、毛深い知将ジョージ・ステファノポロスの動きを執拗に追い、いかにクリントンが二人に演出され、振り付けされたかを、リアルに見せくれる。そしてキャンペーンは、ピザを頬張り、コークをラッパのみにしながら、まるで大学の応援団か同好会の乗りで進む。

 この映画の主役は奇怪な面相のジェムス・カーヴィルで(写真、向かって右)、スクリーンを通して強烈な個性がオーラを放っていた。


      

 しかも、彼には美人の恋人がいて、事もあろうに彼女は敵方ブッシュ(シニア)の選挙参謀でデートもままならないというエピソードも披露されて、アメリカという国は、選挙戦もビジネスのひとつである事を教えてくれる。だから、日本の選挙戦のように、刺客だの、怨念だのといった重苦しさは全く感じられなかった。