隠居Journal:大手町ビルの思い出(2)「カムイ伝」「週刊少女フレンド」「週刊マーガレット」が並んでいたdebug room

私をキーパンチャーとして採用したのは、日本で唯一、IBMが1964年4月に発表したメインフレームコンピュータのシリーズであるSystem/360を備え、科学計算の受注を主としたコンピュータ・センターであった。

 

従業員は主として高卒のオペレーター、キーパンチャーに事務スタッフ、そして、東大・京大・東工大・慶大・津田塾大等を卒業した錚々たる男女のプログラマーであった。

 

その、プログラマー達が、プログラムの欠陥を特定して取り除き、動作を仕様通りのものとするための作業室であるdebug(※)roomには、プログラムを修正するための数台の穿孔機と計算結果待ちのソファが備えられ、その部屋には3段の書棚に隙間無く並べられた「カムイ伝」を初めとする白戸三平の漫画、「週刊少女フレンド」「週刊マーガレット」のバックナンバーが揃っていた。

 

これらの漫画は、購入代金を負担した者だけが読める権利を有し、私も仲間に入れて貰って、ランチタイムや時間外に夢中になって「週刊少女フレンド」連載の里中満智子の「アリエスの乙女たち」と、「週刊マーガレット」連載の池田理代子の「ベルサイユのばら」に読み耽ったのだった。

 

当時の高学歴の男性達の間では白戸三平の漫画が大人気で「カムイ伝を読めば日本の歴史は全て分かる」と言い切る男性プログラマーもいた。

 

今振り返ると、あの頃はコンピュータ産業の黎明期にあたり、職場にはこれから自分たちが新しく地図を描くのだと思わせる独特の自由な雰囲気が流れていたように思う。

 

(※)デバッグ(英: debug)とは、プログラムのバグ・欠陥を特定して取り除き、動作を仕様通りのものとするための作業である。“de-”は「〜から離れて/分離して/除去して」といった否定の意味を持つ接頭辞で、「虫」を意味する英語名詞“bug”と結びついた複合語が“debug”である。