「矯めつ眇めつ映画プログラム(7)「リスボン物語」

 またまた、ヴィム・ヴェンダース監督の作品だが、「リスボン物語」はリスボン市がモチーフの映画を、という同市の依頼に応じて1995年に撮った作品で、リュディガー・フォーグラー扮する映画の録音技師が、手回しカメラでリスボンの街をあちこち撮影するなかで、幾つかの事件が展開し、観光ルートでは見ることの出来ない埃っぽい場末や裏町とそこに生きる人たちを私たちに見せてくれる。


 1994年5月に、ポートワインで有名なポルトから始まりリスボンで終わる、10日間のポルトガル一週旅行を終えて間もなかった私は、あの坂の街リスボン市内を、そして漫々とたゆたうテージョ河を、スクリーンを通して再び眼にすることが出来るというだけで、心を躍らせて映画館に飛び込んだ。それ位リスボンは素晴らしい街であった。


 そして、この映画を通して、思いもかけず、澄み切った美しいメロディーの新しいファドに巡り会えたのは大きな収穫だった。あのツアーで、私たちが案内されたリスボンのレストランでの生演奏のポルトガル民族音楽ファドは、「暗いはしけ」のアマリア・ロドリゲスが象徴する、場末が舞台の、暗くて重い情念のファドとは全く趣を異にするものだったから。


 映画の帰途に早速サントラ盤CDを入手し、これまで繰り返し何度も聴いているが、特に、タイトルロール曲「AINDA]は、映画でもヒロインとして出演していたボーカルの、テレサ・サルゲイロの伸びやかで澄み切った声が、がさがさした私の心を何時も潤してくれる(写真はサントラ盤マドレデウスのCDカバーより)。